中医学の歴史
中医学とは中国で誕生した医学のことで、四、五千年の歴史があると言われています。その長い歴史の中で、現在の中医学が形成されました。
中医学はさまざまな段階を経て発展し、中国だけではなく日本、韓国、モンゴル等周辺諸国にも影響を与えました。
現代の代替医療にも深い影響を及ぼしており、鍼・按摩・推拿・温熱療法・漢方・気功等の基礎であります。
中医学には「人間の身体を全体的に見る」「身体だけでなく、環境・自然界と人間との関係を総合的に見る」「身体の表面と内部の繋がりを見る」「身体の各部位間(循環器系や呼吸器系など)の横の繋がりを統一して見る」等の特徴があります。
また、中国古代の哲学と宇宙観である「天人合一」 「陰陽五行」「精・気・神」等を基本理論とし、同時に「五臓六腑」「気・血・津液」「経絡・ツボ」等を総合的に見る医学でもあります。
中医学の歴史は三つの段階があります。
1.迷信医学の段階
旧・新石器時代の原始社会では、人間は多くの自然現象を説明できずに、全現象の発生原因を直感的に神と考えました。ですから病気の原因も神と考 え、巫医(シャーマン)による「神への祈り」「真言」「儀式」等が基本的な治療方法でした。
その証拠にこの時代の医は」「毉」(下部は巫)と表されています。この治療は初期の心理療法と言えるかもしれません。
2.実践医学の段階
次に青銅器時代の奴隷社会になると、道具は青銅器になり生産能力は進歩し、貧富の差や職業の分化が発生しました。
巫医の経験や技術は、親から子、師匠から弟子など、代々受け継がれるようになりました。巫医の技術の中には、呪術的儀式などもあり、現存する気功 の流派に受け継がれているものもあります。
この時代の治療方法は、気功・鍼・薬・按摩などで、個人的な経験や技術として個々には確立していました。また、科学的な要素も取り入れられ、鍼とか薬草、按摩の治療に「稠酒」と呼ばれる濁ったお酒を一緒に使いました。その証拠にこの時代の医は、「醫」(下部は酒)と表されています。
3.哲理医学の段階
この時代になると、鉄器の使用により生産能力は大幅に向上し、経済レベルも格段に高くなりました。科学技術や思想も哲学も非常に盛んになり、諸子百家争鳴と呼ばれ、中国の歴史上最も思想が隆興する時代が到来します。
この時代の思想哲学は医学にも浸透し、中医学の理論発展の指導的思想になります。
具体的には「周易の陰陽学説」「老子の元気(宇宙の気)学説」「管子の精気学説」「墨子の思弁学説」「荘子の陰陽五行学説」等が医学に取り入れら れました。
その集積となるのが『黄帝内経』という本です。
『黄帝内経』は日本でも有名で、中国史上初めて全国的に「医学・気・哲学」がまとめられた本です。
この中に、中医学の基礎であり、気功の核心であり、哲学は指導であって各々密接に関連して分けることはできないと述べられています。
『黄帝内経』の内容は中医学の基礎です。そしてそれ以降の医学は高い水準となり、かなり以前に現在の理論になりました。
このように中国では「気」の思想が少しずつ形成されていき、『黄帝内経』で治療法として確立されます。
『黄帝内経』をもとにして「気」の医学を完成させたのが、張仲景の『傷寒論』です。
中医学と西洋医学の違い
中医学は体全体を見る医学で西洋医学は部分を見る医学であるとも言われています。また、中医学は森を見る、西洋医学は木を見る医学とも例えられます。
目の前に森があるとします。西洋医学の場合、木を一本一本吟味します。
そのためには、森の中に入って調査をしなければなりません。
一方、中医学は森の中には入らないで、少し離れた場所から森全体を概観します。
このように西洋医学と中医学は人体に対するとらえ方や理論が異なっています。
つまり、西洋医学と中医学では生命や人体を違った角度から眺めているのです。しかし中医学がすべての面においてまさっているわけではありません。
中医学は陰陽五行説のような中国古代の思想で、原理を解いています。
西洋医学の理論は現代科学に基づいており、近代社会の幕開けとともに目覚しい発展を遂げました。
中医学ははるか昔の紀元100年代、張仲景に よって体系化されたのです。
張仲景はその著『傷寒論』の中に、治療法を紹介しています。ここには漢方の処方が記載されていますが、およそ2000年前の処方が現在でも効果の 高いものとして通用しているのは、驚くほかはありません。
中医学が「気」の医学、西洋医学は「臓器」を見る医学としてとらえることもできます。
西洋医学は血液を採取したり分析したり、CTスキャンやレントゲン装置で人体の内部を調べたりします。そのため、人間の体の細かい点まで把握する ことができます。
検査技術に関しては、具体的な数値で客観的なデータを出します。数値的なデータは外科的な処置、細菌感染に対する予防と治療には大きな成果を上げています。現代の日本では西洋医学だけが医学の中心として捕らえられているところに、多くの問題を生み出す原因になっているようです。
病気を引き起こす原因
私達は、大気汚染や騒音、通勤ラッシュ、情報洪水、複雑な人間関係、コンピュータ導入によるテクノ・ストレスなど、数え上げたらきりがないほどの 様々なストレス要因に囲まれて生活しています。
中医学では病気の原因を外因と内因そして不内外因にあると考えています。
<内因>とは七情(恕・思・憂・悲・恐・驚・喜)です。
<外因>とは六淫邪気(風、寒、暑、湿、燥、火)です。
<不内外因>とは飲食失節、労逸(労働の節度)、五労、体質、外傷などです。
労逸とは、①働き過ぎ、②考えすぎ、③性生活過度、④休み過ぎ。
五労とは、①目の酷使、②寝たきり、③座り続ける、④歩き続ける、⑤立ち続ける。
簡単に言うと、内因(自分の感情)か、外因(外部から入ってくるもの)か、不内外因(どちらとも言えないもの)かの3つに分類されていて、
このバランスが崩れることで病気を引き起こすということです。
疲労感や倦怠感は身体の危険信号です。しっかり睡眠をとって心を休ませるようにしてくださいね。