いままで言葉のことばかりお話し、文字のことはなおざりにしてきました。しかし現代の言語学者が言うように「古代には文字は存在しなかった」というのではありません。立派な文字が存在しました。古事記の神代巻では言葉のことを大山津見神(言霊ハ)と神名をもって呪示しています。山津見の山は八間のことで八父韻の働きのことです。津は渡すことの意。見は現れるの意です。山津見とは八父韻の働きが出て現れるもの、それは正しく言葉ということです。八間の働きを図形化すると となります。この図形の原則に基づいて、図形の一部を取って作ったのが大八島文字またはあひる文字または対馬文字といわれる代表的な神代文字の一つです。石上神社の十種の神宝の中の蛇の比礼、百足の比礼、蜂の比礼、種々物の比礼とあるうちの蜂の比礼とは右の大八島文字のことだと推定されています。比礼とは、霊が顕る、の意です。大八島文字のアイウエオ五十音図を示しておきます。
神代といわれる古代におきましては、時代時代で種々の文字が種々の原理に則って考案されたことが古代の碑史に書かれています。古事記に「正鹿山津見神・唹騰山津見神・奥山津見神・闇山津見神・志芸山津見神・羽山津見神・原山津見神・戸山津見神」と書かれている八つの山津見神は、それぞれ制定原則・方法の異なった文字のことを呪示したものであります。
龍形文字と呼ばれる神代文字もあります。蛇がのたくっているような形の文字で、五十音のそれぞれの単音が持つ心の波動形を感得して文字にあらわしたものです。これは日文草文字と呼ばれ、古歌に「道奥のしのぶ文字刷り・・」と詠まれていますから、道の奥すなわち言霊を霊的に感得する根拠となる文字という意味でありましょう。
以上古代神代文字のことを簡単に紹介しました。詳しい解説は今後の研究にまたねばなりません。しかし古代日本には、中国からの文物の輸入があるまでは文字は存在せず、いわゆる神代文字なるものは後代の国粋主義者の捏造であるとする現代言語学の説は全くの暴論です。古代において心の全構造の解明とその原理に基づいた日本大和言葉の厳密な制定の事実に接するならば、その原理の図形化より作定した神代文字の存在も疑う余地のない事実として浮かびあがってくるでありましょう。
日本語と文字_神代文字
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