鰹木

 鰹木に移りましょう。神宮正殿の棟の上に、棟とは直角の方向を向いて鰹木が並んでいます。その鰹木の数は内宮が10本、外宮は九本です。鰹木とは何を表徴したものなのでしょうか。内宮と外宮の鰹木の数に相違があるのは何故なのでしょうか。この疑問に対する解答は色々説明されていますが、今一つ明快さに欠けています。正確な解答は、人間の心の構造を表す五十音言霊図によらないと決してできません。
 鰹木は昔、棟をおさえるため実際に必要があったというのです。その建築の技術的なことはさておき、精神上の意義は次のようです。先ず鰹木の名前が示す意味は何か。鰹木とは数招の意味なのです。それなら数を招くとはどんな意味なのでしょうか。
 先ず結論から説明することにしましょう。数招の数とは五十音言霊図の横の列の数のことであります。数招は「おぎ」又は「まねく」の意だと申しました。それは言霊の意味内容や運用の仕方を数で表すという意味なのです。
 前に人間が持っている性能に五つの段階がある、と説明しました。それを五段階を五つの母音で表します。言霊ウ(欲望・産業)、オ(経験知・科学)ア(感情・芸術・宗教)、エ(実践知・道徳)、イ(創造意志・言霊)となります。
 さてこの五つの性能はそれぞれ別個のものですから、それぞれの目的を実現しようとする心の運び方を五十音図の上で調べて見ますと、色々な違いが分かって来るのです。
 五十音図に向かって右の列は人間の主体性(私)で五母音で表します。向かって左は客体性(貴方)半母音で示します。向かって右の母音と左の半母音の間は八音は、主体である私が客体である貴方にどのいう関係を結べば目的を達成することが出来るか、の心の運び方の手順です。私と貴方との間の心のやり取りと言ったら良いでしょう。私と貴方の間の心の現象(出来事)です。
 先ず人間の欲望(言霊ウ)の行為を考えて見ましょう。そこには人間としての私自身の主体性(母音)や貴方の人間性(半母音)などは意識されません。例えば商売をするのに、自分やお客の主体性・人間性など考えては仕事になりません。ひたすら物を売ること、言い換えますと出来事の成否だけが問題です。
 次に人間の経験知(言霊オ)の段階でも同様です。科学するということは人間の主体性も客体性も捨て去って、ひたすた現象と現象との関係を追求することです。以上言霊ウとオの世界では私とか貴方とかの主体性は意識されないのが普通です。
 言霊アの感情の世界に来て初めて人間の主体性が問題になります。宗教や芸術活動では先ず人間自体が考える対象になります。絵を描くのに「自分はこの景色の何処に美しさを感じたか」が問われるでしょう。信仰とは正に自己の主体性が直接考えられる世界です。けれどこの世界では対象となる「貴方」の主体性は直接の意識には入りません。
 買ってくれたり、見てくれたりする人を意識した芸術作品は本当の芸術作品とは言えないでしょう。
 以上、人間の持つ性能のうち言霊ウ(欲望)、オ(経験知)、ア(感情)の世界の夫々の行為の私と貴方の主体性ということについて考えて来ました。これを五十音図に照らしてみましょう。最初のウ(欲望)とオ(経験知)の行為は私と貴方の双方の主体性(母音と半母音)はネグレクトされ、唯ひたすら私と貴方の間の出来事である八つの手順だけが問題になります。八つの手順だけを追求し、判断されます。日本の古神道はこのような行為を八拳剣と呼びます。八つの手順で判断力という意味です。
 次に言霊ア(感情)の行為に来て初めて私の主体性が意識されました。けれど対象となる「貴方」の立場ははっきりとした意識の外に置かれます。このことを音図で見ますと中間の八つの手順と母音だけが意識され判断される世界です。古神道は九拳剣と呼びます。
 以上の段階に比べて言霊エ(実践知・道徳)ではどうでしょうか。道徳を実践しようとするならば自分自身を良く知るが必要です。それと共に自分の行為の対象となる相手のこともしっかりと見極めて知っておくことも道徳社会を作って行くためには不可欠の条件であります。商売をするなら相手の弱味につけ込むことも一つの手段であります。けれどよりよい社会を作ろうという道徳行為では、私と貴方の主体性(人格)を尊重することから始めなければなりません。
 この言霊エの実践知の世界に来て、初めて五十音図の母音(主体性)、半母音(客体性)、それに中間の八つの手順、計十段階全部が意識の上で揃うことになります。この音図の横の列の十の意識が全部揃う判断力を十拳剣と呼びます。
 人間の持つ性能のうち最後に遺された言霊イ(創造意志)につきましいては、前に説明しましたように、意志というものは他の四つの宇宙の性能である欲望・経験知・感情・実践知をコントロールする性能ですが、意志そのもの行為としては現れません。ですからここでは話題からはオミットすることになります。

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