カゴメ、カゴメ

「かごめ(篭目)、かもめ、篭の中の鳥は、何時何時出やる。夜明けの晩に、鶴と亀が出会った。後ろの正面だーれ」
 上のわらべ歌はどなたでも御存知のここと思います。けれどもこの歌が言霊の原理より見ました人間社会に関しての予言書であることを知っていらっしゃる人は少ないようです。「へえー」と思われる方も文章の進むにつれて納得されることでしょう。
 言霊の原理が方便として世の中から隠されて以来、時が来て再び日本人の心にその真理が甦って来ることを願って、色々な施策が講じられたことは己に説明しました。伊勢神宮の唯一神明造りの建築も、古事記・日本書記の編纂もまた皇室の色々な儀式の形式の工夫などもそのためでした。
 更にもう一つ他の方法が取られました。言霊の原理を秘めた童謡や童話を作って子孫に遺すことです。童謡や童話は親から子、親から子へと語り伝えられます。伝統の書物や建築物は時には消失してなくなってしまうこともあるでしょう。けれど親から子へと語り伝えられる歌や話は世の中が続く限り絶えることはありません。
 昔から日本の伝わる童話…桃太郎・浦島太郎・カチカチ山・舌切雀・花咲爺・猿蟹合戦などは、一度言霊の知った眼で見ますと、明らかに言霊の原理を秘めた歴史的予言書であることが分かって来ます。そしてこの文章の初めに挙げました「カゴメ、カモメ…」の童謡も同じ内容のものなのです。桃太郎などの童謡の中に秘められた言霊の意味を考えていきますと、まことに興味津々たるものがあるのですが、ここでは省略させて頂き「カゴメ」のわらべ歌の意味をお伝えすることにしましょう。
 先ずわらべ歌の文字通りの意味を見ましょう。「篭目の篭の中に閉じ込められた鳥は何時出て来るのか。夜の明けようとする頃、鶴と亀が出会う時だよ。後ろの正面にいるのは誰だ」という意味であります。さて歌の言霊学的意味に入りましょう。
 昔、経験知である言霊オの心の構造を表すのに三角形△を用いました。個々の経験と経験を関係させて、その共通の状態や法則を探って行くことが経験知である学問や科学の研究の仕方です。この方法を哲学的に言いますと、正反合の弁証法的発展の思考方法と呼びます。
 この学問のうち、精神的な学問は形而上学と呼ばれて、上向き三角形△で示され、物質的な学問は形而下学といわれ、下向き三角形▽で表されます。この形而上と形而下の二つ合わせた学問全体の思考方法は の形で表されて、この形をカゴメ(篭目)と呼びました。物質文明尊重の世の中では、もっぱらこの学問的思考方法が世の大勢を占めることになります。
 次に「篭の中の鳥は…」の鳥の意味に移りましょう。神社には鳥居の鳥も篭の鳥も意味は同じで、言霊を指しています。鳥居の二本の柱は私と貴方を意味します。五十音図でいえば母音と半母音です。その二本の柱は私と貴方を意味しています。五十音図で言えば母音と半母音です。その二本の柱を結んで上に渡した横木は五十音言霊図でア・カサタナハマヤラ・ワの十言霊を示しています。
 私と貴方の間を飛び交って、お互いの心を伝えるものは言葉です。もっと正確に表現しますと、言葉に秘められ、その言葉を形成している言霊です。昔の日本人はこの私と貴方との間を飛び交う言霊を、「鳥」がこちらの枝からあちらの枝に飛び交うのに譬えたのでした。「淡路島通う千鳥の鳴く声に…」の古歌は矢張りそのことを意味しています。鳥とは言葉の原理、言霊の原理を譬えた言葉なのです。
 そうしますと、「カゴメ、カモメ篭の中の鳥は何時何時出やる」とは「カゴメの形で示される物質文明の思考の社会の中に閉じ込められ、隠されてしまっている言葉に法則・言霊の原理は何時再びこの社会に甦って来るのだろうか」という意味になるでしょう。
「夜明けの晩に、鶴と亀が出会った、うしろの正面だあれ」と歌は続きます。現在「鶴と亀がすべった…」と伝わっている所もあるようですが「出会った」が本当です。夜は明け方が一番暗い、と申します。「夜明けの晩」の一番暗い時、物質文明が盛んになれば成る程、世相は却って公害だの、原爆だの脅威など暗黒さを増して行きます。華やかな繁栄の陰に言い知れぬ不安は募るはかりです。
 そのな状況に世の中が立ち到った時、「鶴と亀が出会った」となります。
 鶴とは剣を、亀とは鏡のことを指した譬えなのです。古代の剣は両刃の太刀で人間の判断力を表徴したのもです。それを言霊で示しましたのが、言霊十七音で作られている天津磐境の原理というものがあります。人間が生きて行くための物事の判断力の構造を言霊で示したもの、です。
 人間の判断力で分析して得た心の要素を再び総合して出て来た結論を五十音言霊で表したものを天津神籬と呼びます。それを粘土板に刻んで焼いたもの、を甕神と言いました。鏡の語源です。または単に甕とも呼びます。
「大昔、物質文明を作る人間の考え方の形式である三角形のカゴメ(篭目)の中に封印されてしまった人間の言葉の原理(言霊)は何時、この世の中に再び戻って来るのだろうか。世の中の道徳が乱れて最も暗い世となった時に現れるよ。その時人間は心の判断力の始まりから、結論まで全部その謎が言霊で明らかになるんだよ」というわけです。

2024年7月
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