言霊子音の自覚について②

 言霊オの段階に埋没している人も、その探究する学問の究極においてはいつの日か宇宙全般を解明することができるであろうという希望は持っているかもしれないけれど、自己の本性即宇宙なる自覚はない。図表の第一列が母音の自覚を欠き空白となる所以です。
 父韻の配列の初めはキです。何かの現象を見て疑問を感じる時、それを心の中心に掻き寄せ(キ)る韻です。その疑問をいままで蓄積された経験・知識全体(チ)に照合して、いままでの知識と疑問とが統合され止揚されるであろう理論を志向し(ミ)て、言葉として組み立て(ヒ)、検討されて正しいと心に決まれば(シ)、その理論より行動の名目(ニ)を立て、行動し(イ)、次の事態へと発展して(リ)いきます。この心構えもいま・ここの一瞬の中にそれ自体で完成した体系でなく、結論が次の疑問の初まりとなり際限なく続くものです。ウ段と同様最終列の半母音の自覚を欠如します。

 上のキチミヒシと続く心構え・心の手順のことを正反合の弁証法と読んでいます。概念的理論探究である限り必ずこの手順を踏むほかはありません。この弁証法を図示しますと△の三角形があてはまります。△が形而上学的弁証法、▽が形而下的弁証法です。二つ組み合わせた形は大昔より「カゴメ」と呼ばれ、人間の考え方の一つのパターンを表わしてきました。それは現象の分析を推進してそのかなたに完全な真理を発見しようとする帰納的方法です。このカゴメの形にちなんで大昔から歌われている童謡「カゴメ、カゴメ、カゴの中の鳥はいついつ出やる、夜明けの晩に、鶴と亀が出会った。後ろの正面だーれ」の比喩している真の意味を紹介しておきましょう。カゴメはいま説明しました弁証法的思考法則のことです。またそれは西洋的な考え方のことでもあります。鳥とは十理でア・タカマハラナヤサ・ワと整った人間精神の理想的な心の鏡のこと。すなわち、同床共殿の廃止以来世界の科学的弁証法的思考一色の篭の中に閉じこめられている言霊の原理はいつこの世の中に再び現われるのか。それは夜の闇すなわちこの末法の道徳的闇が一番濃くなる夜明け前の時に、鶴すなわち剣(天与の判断力の自覚体である天津磐境)と、亀すなわち鏡(人間精神の究極的理想構造を言霊の配列をもって示した五十音言霊・天津神籬・八咫の鏡)とが、一つの理論体系として人間の自覚の上に完成した(出合った)時である。あなたを実際にあなたたらしめているあなたの後の正面にいるのは誰ですか。…これが童謡の隠された意味であります。大昔、五十音言霊図は粘土板に刻まれて焼物にして保存されたため、これを甕と呼びました。亀は甕に通じます。

 言霊アの次元とは宗教家や芸術家の心です。そのア段の父韻の配列はイ・チキリシヒシニミ○です。アの次元に至って人は自己の本性即宇宙であることを自覚します。母音の自覚を得ます。それゆえ現象となる父韻の配列の第一には宇宙そのものが現象となる韻であるチとなります。ア次元でありますゆえ、その行動の最初は感情の宇宙がそのまま発露されることを示します。その次に、その時、そのところの一つの関心事あるいはテーマが、心の中から掻き寄せられ(キ)、心の中いっぱいに発展拡大されて(リ)、一つの表現を得(ヒ)、その表現が心の中に行動の目的となって固定され(シ)、そこから行動の名目が定まり(ニ)、それが行動となって動き(イ)、その方向のかなたに目標の実現があるであろうことを指し示し、訴えます。(ミ)。八父韻の配列の最後がミで終わることは、その指示するものが基本要求であり未来の目標であるに留まり、いま・ここの一瞬において完結した思考体系でなく、結論は時の経過に委ねられます。半母音の自覚を欠くことになります。

 次に言霊エの次元にいる人の心の運び方について考えてみます。この段階はイ・チキミヒリニイシ・ヰの十個の配列で示されます。第一列の母音イの存在は完全自由な宇宙意識が成り立っていることを示しています。第二列よりの父韻はチで始まります。父韻チは精神宇宙全体が直接現象として姿を現わす韻です。次に父韻キ・ミが続きます。キ・ミは宇宙の中にあるものを掻き寄せ(キ)結びつく(ミ)韻です。ところがいまは言霊エ次元のことです。とすると掻き寄せ結びつく心の働きとは主体の状態と客体の状況を見定めることを意味します。宇宙意識の前にあって、言いかえますと、何ものにも捉われない精神全体の光に照らされて、主体と客体の実相がはっきり把握されるということです。次に父韻ヒがきます。ヒは表面に開く韻です。把握された主客の双方を満足させ創造に向かわせる言葉が生み出されることです。その言葉は心いっぱいに推し拡がって(リ)いくと、心の底に行動の確固たる名目が定まり(ニ)、それが心を推進し(イ)、結論に向かって集約して行き(シ)ます。そしていま・ここにおける心に完成された結論・結果が確定されます。半母音ヰで終了します。