気功の鍛錬と陰陽②

(2)気功における陰陽学説の応用
陰陽学説は次にあげるいくつかの点で、気功に応用されている。
①呼吸
 呼吸の場合、呼を陽、吸を陰とする。「凡そ入気は陰たり、出気は陽たり」(『聖済総録』)、「呼すれば即ち気出ず、陽が開くなり。吸すれば即ち気入る、陰が閉じるなり」(『東医宝鑑』)
 そこで臨床では、陽亢火旺の患者には練功を行うにあたって、もっぱら呼気に注意を向けさせる。すると胸がすっきりとして頭脳は明晰となる。これは余分な陽の呼気によって体外に散らすことになるからである。そこで全く反対の証である陽虚気陥の患者に、同じ呼気に注意を向けさせたとすると、患者は胸腹部の空虚感やめまい、動悸などを訴える。この場合は陽がもともと足りないのだから、それ以上出さないように、吸気に重点をおかなければならないのである。呼吸の陰陽を『景岳全書』では次のように述べている。「陽微(かす)かな者は呼(は)くあたわず、陰微かな者は吸うあたわず」。
②時間
 昔の人は、練功を行うのに、現在の午後十一時から翌午前一時までにあたる子、それに続く丑、寅、卯、辰、巳の時間帯が適していることを強調している。この六つの時刻が六陽である。残りの六つ、午、未、申、酉、戌、亥は六陰であり、この時間帯には鍛錬しないほうがよいと考えられていた。六陽の時間帯には外界に生気があり、六陰の時には死気があるからである。さらに陽の始まる時間である子の刻に練習を始めれば、もっとも効果があると考えて、実際この時間帯に鍛錬したり、別に活子時(小周天において陽生または薬産による景象が生じた時をすべて活子時という)を設けて鍛錬する人もいた。
③周天
 大・小周天功法は、もともと陰陽消長の考えにもとづいて行われたものである。たとえば、任脈は「陰脈の海」であり、督脈は「陽脈の鋼」であり、これら二脈を通じさせることは、とりもなおさず陰陽を調節することなのである。
 また周天の火候を例にとると、武火は陽息であり、文火は陰消であり、一陽が生ずるときには進火が始まり、一陰が生ずるときには退火が始まるが、これらも陰陽消長の関係にあるといえる。これらの陰陽は卦爻の (陽)と (陰)の二つの爻で表されている。
④季節
 気功には、温かい春、暑い夏、涼しい秋、寒い冬の四季それぞれに適した鍛錬法がある。『素問』四気調神論によれば、「春・夏は陽を養い、秋・冬は陰を養う」べきであり、この原則にもとづいて具体的な方法が考えられている。季節と鍛錬の関係についてまとめた専門書として、元代の邱長春が著した『摂生消息論』などがある。
⑤症状
「病を治すに、必ずその本を求めよ」というときの「本」とは、陰陽のことを指している。張景岳は『類経』で、次のように述べている。「人は疾病には…必ず本がある。本は陰か陽のどちらかであり、病変がいかに多彩であろうと、その本は一つなのだ」。
 気功の鍛錬の場合、陽証のものは動・放を重点的に行い、陰証のものは静・守を心がけるようにする。陰陽挟雑したものについては、病状に応じた適切な配慮が必要である。 

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