気功鍛錬と精・気・神⑤

(2)精・気・神と気功鍛錬
 気功鍛錬でも、精と気と神はしばしば強調される要素である。「善く養生する者は内を養い、善く養生しない者は外を養う」(『古今医統大全』明・徐春圃)。ここでいう「内を養う」とは、精・気・神を保養するという意味である。『刪補頤生微論』を著した李中梓は、その中でこの三つをまとめて「三奇」と名付けた。袁黄は『祈嗣真註』の中で「聚精(精を聚る)」「養気(気を養う)」「存神(神を保つ)」という三節をもうけて、これらの重要性を説くと同時に、その鍛錬方法を記述している。
 まず気についてみてみることにする。昔の人は、養生を守息(呼吸をコントロールすること)と同義に考えており、身体にとってもっとも大切なのは気を調えることであった。その理由は、意識的に呼吸鍛錬をすることによって、精気を呼吸する肺の作用が強まるからである。肺は気を主るところから、練功の士は肺をふいごにたとえた。ふいごが空気を押し出すのと同じ働きが肺にはあり、それが全身の気化作用が促進されている、と考えられいたのである。なかでもその作用を強く受けるのは、三焦である。
 上焦の気化作用が強まると、上焦の気機がスムーズに行われるようになり、肺気の宣散作用が十分発揮されるので、精微物質が「百脈」を通じて全身を養う。こうなれば全身的に精力が充実してくる。
 中焦の気機がスムーズに行われるようになると脾胃の気が強まるわけで、食欲は旺盛となり、体重が増加する。
 下焦の気機が調整されれば、腎陽の気の充実にともなって、脾胃の運化作用がいっそう盛んになり、また全身をあたためる力も強くなる。練功中、しばしばあたたかい感覚がおこり、さらに唾液が増えるのは、腎気が充足して上に注いだことの現れである。
 人によって練気を「元気を練ること」と解釈して、気は鼻から呼吸する空気のことではないとみる向きもあるが、実際にはやはり、後天的な呼吸法を用いて鍛錬を行うのである。服気、閉気、胎息などももちろん後天的呼吸法である。ただし気功鍛錬で要求されるのは自然でしかも深く長い呼吸であり、『黄庭経』の言葉を引用すると、「虚無を呼吸して丹田に入れる」ようにしなければならない。このような呼吸法が結局元気を練ることになるのはなぜかというと、呼吸した気が腎間、つまり丹田にある先天の精と気である元気を養い、これらを発動させるからである。このような精と気が結びついて強身防病の作用を現すことを、『黄庭経』では「精を積み、気を累(かさ)ねれば以て真を成す」という言葉で表現している。
 気功鍛錬がすなわち練気のほかならないとはいえ、やはりそこには神の作用が強く影響している。『胎息経』の次の文章を見ていただきたい。「気は体に入ってきたときに生命が生じ、神が体から離れ去ったときが人間の死である。神のはたらきを認識することによって、長生きすることができるようになる。雑念をはらい虚無の心持ちのうちに神気を養っていけば、神が行るにあわせて気も行り、神がとどまっているうちは気も体にとどまるものだ。長生きしたいのであれば、この神と気の両方に注意を注ぐことだ」。
 徐春圃は『古今医統大全』で、次のように述べている。「身体は、生命に気が宿った現れである。心は身体の主である。したがって、神が躁然として定まらないと、心も乱れ、心が乱れれば身体は傷つけられる。もし身体を傷ることを全うしたいと望むなら、まず神を調理すべきである。こころが和やかに楽しませて神を養うようにしておけば、自ずと体内は安定する。清にして虚たる状態を心神に接(つ)げば、気が体外に誘いだされることはない。神が和し、心が清らかであれば、身体(形骸)に累(わざわい)が及ぶことはない」。
 ここでいうように、気功鍛錬でまず要求されるのは精神集中と、安静を保持することによって、神を養うことである。心を調え神を凝集することで、真気を増強させるのである。
 練功を行う際、一般的にいって臍部に意守することが多い点にも注意すべきである。臍はいわゆる命門の領域であり、昔の人はここを「黄庭」とも呼んだ。『黄庭経』には、「上に黄庭あり、下に関元あり、前に幽闕(神闕、臍を指す、生門ともいう)があり、後ろの命門(蜜戸ともいう)と囲まれたところで、ここに心神を注いで守り、意識を強化することによって、神は腎間の動気を充実させ、育てるように動く。神が気をコントロールし、神が外にもれ出さず安定していれば、気はおのずと定まり、その上で意識的に調節することによって、身体の健康は必ず促進されるのである。さらに養神・在神・凝神等の方法を行うことによって神・魂・魄・意・志の安定をはかることができる。これは五蔵の安定につながり、五蔵が調和するとまた神の作用がよりよく発揮される、というようにフィードバックするのである。
 精に関して、気功の鍛錬で重視されるのは先天の元精である。後天の精である生殖の精は、また後天的なザーメンとしての面をもちあわせているが、先天の元精はこの後天の精に充養されなければならないのである。そこで神・意を練り、その部位にめぐらせ、後天の精を発動させる必要がある。練功者に重要なのは当然日頃の節精・聚精の方である。この方面に関する論述は古来から非常に多くなされている。
 精を消耗しすぎることは健康にもよくないし、練功を行ううえにも悪影響を及ぼす。昔の練功者はこの問題を非常に強調したことを付け加えておく。

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