古代の呪術と手技
では、古代中国に生まれた医術とは、いったい何であったのか。
古代では、どの国でも呪術と手技療法が、病を防ぎ、癒す唯一の方法であった。「醫」という字を分析すると、上部は医と殳になる。医は矢の箱構えであるから矢箱。ルマタは柄の長いまさかりを意味し、戦争時の軍陣外科治療のこと。下部の酉は、サンズイを付ければ酒となり、当時のどぶろくとか発酵するもろみなどを入れた壷を意味し、薬用すなわち内科治療のことといわれている。
しかし、醫のさらに古い字に「毉」があり、この下半分の巫が、シャーマン、鬼道、呪術療法の意味となる。まじない、お守り、護符、おはらい、加持祈祷などなど、これらの呪術の表現は、世界のすべての国に、種族・宗教の区別なく、現代にいたるまで民衆の風俗・習慣のなかにとけこんでいる。
手技療法のほうは、人類が経験によって自然に会得した、もっとも素朴な治病技術である。
日本でも「手当て」「手入れ」「手おくれ」といった言葉があるように、まず患部に手を当てることによって、病苦が軽減する。ときには治すこともできるということを経験により知り、病気を外部から治療することのできる急所、すなわちコツ、ツボを次第に会得していった。されに「手当て」の手技が次第に複雑化して、「導引・按蹻」となり、一方、手の代わりに器具、薬物を用いる方向に進化していった。それが砭石、九鍼、灸、種々の塗布薬になった。