西洋医学の歴史│ 近代.1

近代ヨーロッパ.1
 医療にルネサンスの影響が現れるのは十六世紀からで、ヴェサリウスの解剖学が始まりです。その解剖学は大部分が彼が自分自身の目で見たことを述べて、それまで金科玉条とされていたガレノスの学説を根本から揺るがせたのです。
 この当時の医療の実態を、十六世紀に活躍したアンブロワーズ・パレというフランスの外科医が書いています。医師は、何かというと静脈を切って血を採る瀉血をし、何にでも下剤を用いた。医師がやれることといったら、ほとんどそれくらいしかなかった。これでは、治療というより、病気を悪化させているようなものです。ときには瀉血のメスがそれて、下の神経を傷つけ、手を麻痺させて、使いものにならないようにしたこともあったらしい。また、指先をナタでぐちゃぐちゃになった患者が来ると、煮えたぎったサムバック油をぶっかけて、その指先に大火傷を起こさせる。患者は悲鳴を上げて気絶するのがふつうであったそうです。
 戦争で傷を負った者に対する治療はもっと残酷で、火傷した部分を手術で切りとったときの止血のために真っ赤に焼いた鉄の棒がその傷口に押しつけられ、そしてそこに、煮えたぎったサムパック油がぶっかけられる。こうした治療が千年以上もつづけられていたそうです。このような治療をうけたために死んだ者の数は、それによって助けられた者の数のいったい何倍になったことでしょう。
 パレは、従軍しているとき、幸か不幸か、傷口にぶっかけるサムパック油がなくなり、そのために負傷者に軟膏を塗ってごまかしたら、そのようにごまかしてやった者のほうが生き残ったということを観察して、サムバック油をぶっかけることを中止したのです。
 また、止血のために焼いた鉄の棒を用いることもやめて、血管を糸と針でしばる方法もパレが始めたのです。

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