西野皓三│「頭脳」と「身体」

人間には約60兆個の細胞でできていますが、その細胞の一つ一つが“知”を持っているのです。
知というのは、従来、頭脳によってだけ生み出されるものだと思われていました。歴史的にみればうなずけることです。
17世紀頃まで、命の源泉というのは、心臓だと思われていました。
胸に耳を当てると、ゴトンゴトンと音がなくなると、死ぬ…「きっとこの中に命の源泉があるのだろう」と人々は考えたのです。
哲学者デカルトが出た17世紀頃から、解剖学などが発達し、ウイリアム・ハーヴェーの血液循環説が出て、心臓は血液を送るポンプだということが分かりました。
当時、人間の心臓はポンプだと言っても、人々は信じませんでした。17世紀の世界において、ほとんどの人がそんなことはない、心臓は命の源泉だと思っていたのです。それが時代が下がるにつれて、急速に、頭脳が大事だということになってきました。
一生懸命勉強して頭を良くすれば、自分の人生も社会も拓けていく、希望が達成できると、多くの人が思うようになったのも、近代に入ってからのことでした。
人間は頭脳を駆使して、いろいろなものを創り出してきました。近代は「頭脳がすべての中心になって進んできた時代」と言えるでしょう。
ところが最近、「頭脳は大事だが、大脳以外にも知が存在するのではないか」ということが、分かり出してきたのです。分子生物学をはじめとする生命科学の進歩は、もう一つの“知”の正体を徐々に明らかにしつつあります。
「細胞の知」とはDNAにインプットされている生きるための情報です。
クローン羊やクローン牛が誕生して、一つの乳腺や皮膚の細胞から立派な一頭の成獣が出来ることが立証されました。一つひとつの細胞の中に、脳をはじめ、身体のすべての部分を作る情報(知)が含まれているのです。そうした「細胞」が60兆個集まって、人間が作られているということです。
60兆個の細胞が持っている「知」…それが西野流では「身体知」と呼んでいます。「頭脳知」を最大限に引き出すもの、それが細胞に秘められた身体知である、と言ってもいいでしょう。

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