西野皓三│運命を変えた…

私の運命を変えた一冊の本
そうこうしているうちに、終戦を迎えました。
戦争が終わってみると、日本の世の中はガラリと変わってしまいました。その姿を見て、私はつくづく感じざるをえませんでした。
人間の身体の仕組みは、何があってもほとんど変わらない。しかし、人間の考えや生き方は状況次第でいっぺんに変わってしまう。いったい人間の「自己」というのは、どこに存在するのだろう。世の中にはさまざまな人生がある。活き活きと活躍しつづける人もいれば、無為に時を過ごす人もいる。同じ身体を与えられて生まれてきたはずの人間の人生が、そのように異なるのはなぜだろう。いったい、何が人間を動かしている根源なのか。
普通、その答えは脳だと言われています。人間のアイデンティティは、脳に宿る。そして、脳の働かせ方によって、人生は幾通りにも変わってくるのだと言われています。
しかし、私には脳だけとは思えなかったのです。込み上げてくる感動は脳だけから湧いてきているとはとても思えません。戦後、西洋のクラッシック音楽が復活し、本物の音楽に触れる機会が増してきたのですが、素晴らしい音楽を聴くと身体が震えるほど感動するのです。
芸術は生命力を喚起し、個々の細胞に快感を与え、じっとしていられない、つまり、生きる(動く)意欲や伊吹、そして勇気を与えてくれます。
この感動の根源は何なのだろう。人間が感動し、身体がワクワクするその“大本”を体験し、解明したいと思うようになりました。
医学部の同窓生である奥田清君(大阪市立大医学部名誉教授、2002年没)たちと、在学中に音楽クラブを作ったのもそのためです。
当時のことでから、学友たちはみな、お金がなく、私は哲学書などの蔵書を売り払って楽器や音楽書を買いました。終戦直後の日本では書物が払底していましたから、かなりの値段で売れたのです。
蔵書を持って訪れた古本屋で、私は偶然、一冊の本と出会ったのです。それはセルゲイ・ディアギレフの伝記でした。

2020年8月
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