西野皓三│バレエ芸術②

細胞が喜んでいる動きこそ、バレエ芸術②
1954年(昭和29年)、チューダー氏は振り付けの仕事で来日し、再会することができました。私とチューダー氏は、毎日新聞紙上で「バレエと能」について対談しました。対談後も話題は尽きることなく、日本文化と西洋文化との違いなど、時の経つのも忘れて語り合ったことを記憶しています。
その時私は次のように述べました。
「日本の感覚は、内なるものをさらに内の中に醸成し、観客の感性に訴えるというものです。ところが、西洋では内なるものと外なるもののコミュニケーションがはっきりしている。
日本の場合、その人の感性に訴えるということになりますが、捉え方によっては曖昧だということにもなってしまいます。これがいい形に表わされると、幽玄の美となります。あらゆる意味で国際化が必要とされる現在、日本でも内なるものをある程度、確実にコミュニケートすることは大切でしょう」
チューダー氏は私の考えに共感を見せ、「能を理解するうえで、君の解説はたいへん助けになった」と感謝されました。師であるチューダー氏に多少なりと恩返しができたことは、私にとってたいへん嬉しい思い出です。
クラスケ女史にしても、チューダー氏にしても、教え方が日本のバレエとは、だいぶ違っていました。
欧米に追いつけ追い越せの時代でしたから、その頃の日本のバレエは、形にとらわれて教えるという印象でした。おそらく、それは、バレエだけではなく、当時の他の芸術でも言えることでしょう。(現代の日本における芸術の進歩は目覚ましいものがあり、国際的な水準になってきたことは喜ばしいかぎりです)。
日本人は内面的でナイーブだと思っていますが、少なくとも芸術表現としての内面やナイーブさは、はっきり外に通じなければなりません。ただ形だけを習っているだけでは肝心なものが外(観客)に伝わらないのです。
欧米人は容姿が美しいので、形としての外面を重視していると思われがちですが、実はそうではありません。バレエは、身体の内なるエネルギーを表現して外に出すことなので、形を超えた動きそのものが大切なのです。内なるものを外に表すには、バイブレーションを生じるような「内から湧き起こる動き」が大切です。そこには深い、なめらかな、宇宙と同調するような“呼吸”が不可欠になります。
そうした呼吸に支えられた「内から湧き起こる動き」とは、全細胞が喜んでいる生命の歓喜を表わす動きだと言ってもいいでしょう。その動きこそが、観ている人々を感動させることができる生命エネルギーの躍動の動きなのです。

2020年6月
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