西野皓三│路上の手術①

路上で行われた心臓手術は…①
腸管内臓系に与えられた直観知(身体知)、すなわち常識にとらわれない、優れたとっさの判断力が人の命を救ったという例を紹介しましょう。
この話はテレビの海外レポート番組でも報じられましたが、胸を刺され、絶望的と思われた人の命が、医師の信じられない機知と対応によって助かったという話です。
ロンドン北部で貿易商を営むモフィド・アルジャサスさんはクリスマスの日、通りがかりの暴漢に刃物で胸を刺されました。血だらけになって歩いてくるモフィドさんを見つけた弟のモアイドさんは、すぐに救急車を呼びに行きましたが、戻った時、モフィドさんはすでに意識を失っていました。
5分後、地元のレスキュー隊が到着しましたが、ほとんど息をしていないモフィドさんを見て、隊長のノエル・トーマスさんは助かる可能性はまずないと思いました。
8分後に、ロイヤル・ロンドン病院のヘリコプター緊急医療隊が到着しました。ショーン・ケーオ医師は、胸の傷の深さと患者の容体から「心臓にまで損傷が及んでいる可能性がある。一刻も早く手術をしなければならない」と思いました。
しかし、担架を準備した時点で、患者の血圧が急激に低下し、脈拍もまったく感じられなくなってしまいました。モフィドさんの心臓は完全に停止してしまったのです。通常、3分以内に処置を施さなければ、脳は死んでしまいます。だが、心臓手術の設備のある大病院までは、ヘリコプターで8分はかかるのです。
もはやモフィドさんの死は免れないと、誰もが諦めました。その時、ショーン医師は思わぬ行動に出たのです。彼はノエル隊長に「一番近い病院から、可能なだけの血液を持ってきてください」と言いました。すでに心臓の停止した患者の身体に、何をしようというのか…ノエル隊長はショーン医師の言葉を聞いて耳を疑ったと言います。
なんと、ショーン医師は道路の真ん中で手術をすると言ったのです。

2024年4月
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