西野皓三│味覚について①

「絶対味覚」について①
ショーン医師は南アフリカでの経験を通じて身体知を身につけたわけですが、経験による身体知とは別に、もう一つ「気質による身体知」があります。
世界を眺めてみると、それぞれの国や民族には、それぞれに国民気質、民族気質というものがあります。
国民気質、民族気質というのは、一朝一夕に生まれるものではありません。気質とは、身体にしみ込んでいるもので、頭の中で作り出すものではありません。教育によって脳に新しい情報を多少注ぎ込んでいるもので、頭の中で作り出すものではありません。教育によって脳に新しい情報を多少注ぎ込んでも、気質はなかなか変わらないのです。
たとえばラテン民族の陽気さ、ゲルマン民族の剛毅さ、日本民族のわび・さびに通じるナイーブさ、アメリカ人の民主性やフロンティア精神…気質はその人々が生まれ育った風土、土地柄、環境の中で長い年月をかけて育まれます。
気質に根づくには、長い歴史が必要です。それは何代も続く過程の中で、細胞の一つひとつに刻み込まれていった身体知と言えるでしょう。気質は人間のような高等生物が、環境に最適な形で適応しようと、長いプロセスの中で獲得した身体知の現れだといえます。
気質を説明する、分かりやすい例を出しましょう。
よく食通や一流料理人の間で「味は三代」という言葉が使われています。本格的な味覚を養うのには普通は一生かけても難しい。二代目でも、なかなか到達しない。三代目でようやく“本当の味”が分かるようになるというのです。
「たかが味ひとつに、そんな大げさな!」と思う人もいるかもしれません。「うまい、うまくないと感じるびは好き好きだ」と言う人もいるでしょう。
味は、最終的には素材と鮮度と包丁(技術)ということになります。素材の質には明確な基準があります。果物一つ見ても、産地によって質(うまさ)が非常に違います。
音楽の世界に「絶対音感」という言葉があるように、味覚の世界にも「絶対味覚」と言ってもいいような味覚があるのです。経験によって多少味覚は磨かれていきますが、絶対味覚を養うには、気質を育てていくのと同じように、三代と言われるほどの長い年月をかけ、細胞レベルで、身体で覚えていかなければならないのです。
もちろん、食のプロでない人が、味が分かる、分からないと必要以上にこだわる必要はないでしょう。食べることで大切なのは、健康によい、新鮮なものを楽しく食べることです。

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