西野皓三│呼吸の重要性

胎児が教える呼吸の重要性
興味深いことには、動物の水棲段階から陸棲段階への変化が、人間の胎児がお母さんのお腹の中で過ごす。いわゆる「十月十日」(実際は9カ月)の間に見事に再現されるのです。
母親の子宮の中で、胎児は見事に人間への進化のプロセスを再現してみせます。
初期の胎児にはシッポもあります。エラも備わっています。胎児は最初、魚の形をしているのです。
三木成夫教授の研究によれば、その胎児が水棲段階から陸棲段階に「進化」するのは、受胎後32日目から1週間の出来事だと言います。この時が、エラ呼吸から肺呼吸への転換点なのです。三木教授は、「悪阻が起きたり、流産の危険が高まるのが、ちょうど命懸けの飛躍をしているこの時期だ」ということも指摘しています。
三木教授は、中絶した胎児を調べて標本を作り、胎児が母親の胎内で動物の進化のプロセスを再現することを実証したのですが、現在ではPETによって妊娠のお腹の胎児を実際に観察することができます。
受精直後の生命は、直径わずか0.1ミリですが、4週で50倍に育ち、脳と心臓が形を現わします。2か月半も経つと、胎児は親指の先ほどの大きさになり、もう神経も出来て感覚も運動も可能になります。
3か月目になると、一人前に舌なめずりを行い、舌鼓さえ打ち始めます。すでに味覚が備わっているということです。身長4センチの胎児は、羊水の味覚を楽しむことに明け暮れるのです。またこの頃になると、他の臓器も作られ、指しゃぶりを始めます。これは、将来、おっぱいを吸うトレーニングになっています。口に触れるものは何でも吸うので、自分の腕に派手なキスマークをつけて生まれてくる子もいます。
母胎内の胎児はヘソの緒を通じて胎盤呼吸をしています。この、ヘソの緒を経て受け取っている酸素は大人の肺呼吸の4分の1にすぎないのですが、この低酸素環境は、肺呼吸を確実に始動させるための安全装置になっていると言われています。胎児は胎盤呼吸をしている間に肺呼吸システムを完成させるわけです。PETを用いた研究によって、こうしたことまで明らかになりつつあります。
しかし、胎盤呼吸から肺呼吸に、どうスイッチしていくかという呼吸のメカニズムの基本問題は、まだ解明されていません。胎児の身体知に任されているのでしょう。
実際、陣痛の始まりを決めるのは母胎ではなく、胎児の方にあるらしいことが分かってきています。出産は母親がイニシアティブを取るのではなく、実は胎児が「生まれたい」というシグナルを発することによって始まるというわけです。

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