西野皓三│鼻呼吸と口呼吸①

鼻呼吸と口呼吸①
高度で複雑な人間の生き方を、大本で支えているのが「好き嫌い」という情動です。そして、この情動は、脳の「扁桃核」と呼ばれる部分と深い繋がりがある、ということは第3章で解説します。
この扁桃核において最も重要な感覚は、「腸管内臓系」が発する体内感覚なのですが、実はもう一つ重要な情報があるのです。
それは、嗅覚です。
視覚や聴覚などの感情情報は、一般的に大脳新皮質の感覚野を経て、扁桃核に入ってきます。ところが、臭覚からの情報だけでは、もう一つのルートを持っているのです。臭覚の情報は、扁桃核の全部にある嗅球から嗅経節を経て、大脳皮質を介さずに直接、扁桃核に入ってくるのです。
つまり、嗅覚は生存だけではなく、情動を作り、知性を生み出すうえで、特別に重要な感覚だったのです。
人間の脳において、鼻が感じたニオイを認識するのは「嗅脳」であるとされていますが、この嗅脳は、大脳新皮質の下にあり、別名「大脳辺縁系」とも呼ばれています。
大脳研究の当初、嗅脳という呼び名が使われたことからもわかるように、大脳辺縁系は単に嗅覚のためだけのものと思われていましたが、研究が進展していくにつれ、辺縁系は脳における「情動」を司っている事実が明らかになったのです。大脳辺縁系が「情動脳」と呼ばれるのは、そのためです。
“嗅脳=大脳辺縁系=情動脳”という構図から分かるように、嗅覚と情動との間には密接な関係があります。
原始的なヒドラの生命維持本能が、内臓の「快・不快」のシグナルを生み出したように、生命維持に直結した嗅覚の「快・不快」が、情動を生み出したとすることは、自然なことでしょう。情動は、生命の根源に繋がるものだからです。嗅覚は情動の発信源であり、その情動が大脳新皮質に伝わって、さまざまな知性を作り上げる基盤となるのです。