西野皓三│嗅覚②

生命を守る「嗅覚」②
イヌが優れた嗅覚の持ち主だということは誰でも知っていることです。
イヌは放尿したり、あるいはニオイの分泌腺から物質を分泌し、それを地面や木にこすりつけたりすることで、他のイヌに対して自己の存在を知らせます。こうしたイヌの行動はマーキング(印付け)と呼ばれていますが、マーキングによってイヌは、自分のテリトリー(縄張り)を確保して、他のイヌとの無用な争いを避けているのです。マーキングはサルにも野ウサギにも見られます。
魚の世界でも、仲間の識別は嗅覚によっています。同種の魚は絶えず共通のニオイを出し合って仲間であることを確認しながら生活しているのです。それどころか、仲間の中でお互いに誰であるかを識別するのも、嗅覚によります。それぞれの魚が、それぞれの個体臭を出しているのです。
動物にとって、嗅覚は複雑微妙な形で生命の維持に貢献しているのです。
動物学者フォン・フリッシュは1973年、“驚愕物質”の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
“驚愕物質”とは、ヤナギバエという魚が、ダツなどの大きな魚に噛みつかれた時、損傷した皮膚から出る特殊な物質で、この物質のニオイが仲間に危険を伝えると言われています。
“驚愕物質”は、死んで間もない魚の皮膚からも出ると言われています。集団で生活している魚の場合、敵に襲われても、まず群れの周辺部にいる魚が攻撃されるので、中心近くにいる他の魚には敵が見えないことが多いのです。そこで驚愕物質が役に立つわけですが、この物質が種族保存にとってたいへん重要なのは、言うまでもありません。
この“驚愕物質”について調べてみたところ、あらかじめ魚の粘膜を破壊していくと、このような“驚愕反応”はまったく起きないことが分かりました。“驚愕反応”は嗅覚によって起こると断定されたのです。