西野皓三│嗅覚①

生命を守る「嗅覚」①
動物の生活は、自己保存と種族の保存という二つから成り立っていますが、いずれにおいても欠くことのできないのが、嗅覚です。
動物は嗅覚が弱るとたちまち、生命を失ってしまいます。動物は、他の動物を襲ったり、あるいは果実を採ることによって食べ物を確保しますが、その際に最も重要なのは、嗅覚です。ニオイによって有害な食べ物を選別し、あるいは獲得の所在を嗅ぎつけるのです。危険な敵から身を隠し、逃れる際にも、嗅覚の力を借りて行っているのです。
聴覚を持たない生物はいくらでもいます。視覚がない、つまり、光が何の刺激にならない動物もたくさんいます。しかし、何らなの化学物を感じたり、それに反応したりするという、嗅覚を持たない生物は一つもないといっていいでしょう。
種の保存のためにも、嗅覚の能力は欠かせません。動物は成熟した異性を見つけ、子孫を生まなければなりませんが、原野やジャングルの中で単独生活を営む多くの動物にとって、一年の限られた交尾期に相手を見つけ出すことは、けっして容易なことではないのです。発情物質と呼ばれるフェロモンを嗅ぎ分け、適切な雄や雌を探し出すことは、嗅覚の助けなくして不可能だと言えます。
それだけではありません。動物が同じ種類の仲間であることを確認するのも、実は視覚や聴覚というよりは嗅覚によっているのです。フクロウやマウスなどの動物は、ニオイで他の動物を判別します。シカなどの生後間もない動物は、母親のニオイを通じて、自分の種族のニオイを記憶して、夜、闇夜の中でも仲間かどうか判断しているのです。

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