西野皓三│“身体知”の知恵

生きがいを創る“身体知”の知恵
「腸管内臓系」は単に消化・吸収の働きをするだけのものではありません。「腸管内臓系」は、人間の知性にとって不可欠な「情動」のでもあります。
「情動」とは、本能に基づいた、根源的な生の衝動、感情の源泉とも言うべきものですが、この動物にとって本源的な「情動」がなければ、知性は生まれないのです。
「腸管内臓系」は、単なる消化・吸収の器官と思われてきましたが、実は消化吸収を行ない、生命を支えると同時に「知性の基盤」にもなっていたのです。「腸管内臓系」とは「脳を支える器官」だったのです。
現代人には、「脳は腸より高等な器官」という思い込みが抜きがたく潜んでいます。そこには「腸管内臓系」に対する決定的な認識不足があります。
この「腸管内臓系」の優れた働きは、生物が頭脳を獲得する前から備わっていたものです。
動物の身体においては、まず食物を摂取・消化するために腸管内臓系が作られました。中枢神経を持たない下等動物は「腸管内臓系」だけが頼りでした。
その下等動物が進化のプロセスを経て、やがて頭脳に脳を持つようになっても、頭脳は「腸管内臓系」とペアになって、初めてうまく働くように設計されているのです。
ヒトという種は、あらゆる生物種の中でも大脳が特別に発達し、言語能力や論理的思考を可能にする「大脳新皮質」を獲得したために、脳が独り歩きをし、脳を支えている腸管内臓系の働きを忘れていったのです。その傾向は、頭脳知偏重の現代になって、ますます拍車がかかっています。
個人生活において「生きがい」の損失が問題にされているのも、また社会において不毛なイデオロギー対立や局地戦争が繰り返されているのも、環境破壊といった地球規模の問題が起きているのも、突き詰めて言えば、「生物が生物として生きていくための身体知」の知恵が失われていった結果だといえるのではないでしょうか。
生命の持つ知は、本来、「生きる」ためのものであって、「自滅」を導くようなものではないのです。腸管内臓系と頭脳が正しく連携していれば、こんな事態は避けられるはずです。
人間は本来、素晴らしい能力を持っています。その力を発揮するためには、大脳の働きとともに腸管内臓系の働きを再認識すべきでしょう。

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