西野皓三│命を尊ぶから利他が

自分の命を尊ぶから、利他が生まれる
決断を下すうえで、われわれが頼りにしているのは、どちらを選ぶか」「どちらが好きか」という基準です。いかに高尚な形而上学的な思考であっても、その基盤にはかならず情動、つまり「生物としての本能」があるということです。
この事実は、人間を崇高な存在だと思っている人にはショッキングに聞こえるでしょう。「しょせん人間は、自己中心的な生き物にすぎないのか」「利己的な存在なのか」と思う人もあるかもしれません。
自分の命はたった一つ、何物にも代えがたい…これは、生命における絶対唯一の真実です。これ以外の価値基準は、すべて人間の頭が作り上げた、相対的なものです。常識や倫理は、時が経てば変わります。しかし、「自分の命は何ものにも代えがたい」ということだけは動かしがたい事実です。
「生きつづけたい、自分を守りたい」という欲求が命の大切さを教え、命を大切にするからこそ、自分を超えて愛するものや社会のために勇気をもって命を投げ出したいという衝動が生まれるのです。
「利己的な遺伝子」説を唱えた生物学者リチャード・ドーキンスは「DNAの自己保存欲求が、動物の母性愛を生んだのだ」と言っています。つまり、母が子を命懸けで守るのは、自分の遺伝子を子孫に伝えたいと願いからだというのです。母性愛のもともとの動機は、DNAの利己心だというわけです。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、「命を守りたい」という利己心があるからこそ、利他の精神、他人に尽くすという精神が生まれるのです。
ドーキンスの説は、常識を打ち破る新鮮な驚きを与えました。だからといって、動物たちが見せる母性愛の美しさ、素晴らしさはいささかも揺らぐものではありません。