西野皓三│ポジティブの限界

ポジティブ・シンキングの限界
身体(腸管内臓系)レベルの情動で動く姿こそ、人間にとっては自然で健全な状態なのです。大脳新皮質が異常に発達した人間は、ともすると脳の作り出す考え(幻想)だけで現実を克服しようと試みます。
その典型が、スーパー・オプティミズムと似て非なるポジティブ・シンキング(positive thinking)です。
ポジティブ・シンキングとは、「なせばなる」という素朴な信念を信じることによって、その人の生き方を、より積極的に誘導しようという、メンタル・テクニックの一つです。失敗や挫折に弱い人たちを救うために作られたものだと言われています。
ポジティブ・シンキングの発想は古くから存在しました。当初は、そのシンプルさゆえに多くの人々の共感を得て、一時的には流行するのですが、じきに忘れ去られ、また時間が経つと再び流行するというサイクルが繰り返されているもののようです。
日本でも大正時代には栗田仙堂という人が「美男美女になる方法」を説いて、たいへん評判になりました。
その方法とは、毎日「私は美女になる」「私は美男になる」と唱えることなのです。これはまさにポジティブ・シンキングの典型でしょう。
ポジティブ・シンキングそれ自体は望ましい心の持ち方であり、一定の効果もあるのでしょう。しかし、脳が創り出した考え(幻想)だけで人生が切り拓けると思うのは、やはり無理があります。思いどおりにならないのが、現実であり、世の中なのです。このポジティブ・シンキングを信じすぎると、そのことによって必要以上に人生の挫折感や焦燥感にかられるということにもなりかねません。
生きることへのポジティブな姿勢を得ようと思えば、頭脳知のシンキングによるだけではなく、身体知の腸管内臓系によって創り出す必要があるのです。
脳はアメリカ大統領のような存在だと考えると分かりやすいかもしれません。アメリカの大統領は絶大な権力を持ってはいますが、その本質はあくまでも国民に奉仕することにあります。大統領の「雇い主」は国民なのです。
人間の身体においても、その主体はあくまでも細胞一つひとつにあり、その細胞に奉仕するのが大脳というわけです。