西野皓三│暗黙知①

暗黙知①
ボランニーの著書『暗黙知の次元』の副題は“言語から非言語へ”となっています。
つまり、ボランニーの“暗黙知”とは言語では語ることのできない“知”ということになります。つまり、直観(ボランニーは内感intimationと言います)のような、身体に支えられた知であるということです。
ボランニーは、暗黒知の典型的な例として、名医の診断技術を挙げています。
名医の診断は、触診や脈診に代表されるような熟練を要する検査と、高度な観察が結びつていると彼は言います。診断と言う「知」には「何であるかを知る」(knowing what)ことと、「いかにすべきかを知る」(knowing how)という、知の認識面と実践面の両面があるというのです。
暗黒知は身体を媒体とした経験であり、学校に行けば教えてもらえるような、あるいは本を読めば得られるような「単なる知識」としての知ではないのです。
ボランニーは暗黒知という概念から、「人間がなぜ未知の事物や法則を発見できるのか」という点をも解明しています。
その出発点は、「人間はいかにして問題を正しく設定することができるのか」ということです。
答えのある問題ばかりに慣らされてしまっている現代人は“問題を立てる”ということのむずかしさや重要性を忘れがちです。
“問題を立てる”ということは一見、何でもないように思われますが、これは人間の知にとって、ひじょうに本質的なことなのです。本来、“問題を立てる”ということは、最初から答えの分かっている事柄に対しては、意味のないことだとボランニーは言います。
しかし、まだ存在すら知られていないものを探すに当たって、どうして人間は問題設定をできるのか…その答えが暗黒知なのだということが、ボランニーの結論です。

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