西野皓三│言語は遺伝子①

言語は遺伝子で作った①
理性そのものともいえる言語活動が実は本能だったという有力な説を紹介します。
「言語は人間は本能である」と言い出したのは、どんな言語にも共通する普遍文法があることを示した著名な言語学者ノーム・チョムスキーですが、そのチョムスキーの理論を超えたと言われ、注目されている言語学者にスティーブン・ピンカーがいます。
ピンカーはマサチューセッツ工科大学教授、同大認知神経科学センター所長を務めていますが、『言語本能』(原題 The Language Instinct 邦題『言語を生み出す本能』)という著書を出版し、たいへん話題になりました。
彼は最新の認知科学を武器に、言語が本能であることを証明していきます。認知科学とは、言語学をはじめとして、哲学、心理学、コンピュータ科学、神経生理学、遺伝学などの手法を総動員して、人間の知能の仕組みを探求する学問です。
ピンカーは、「言語についてさまざまな先入観がはびこっている」と言います。
「言語とは人類の最も重要な文化的発明品である」「言語を獲得するという生物学的に前例を見ない出来事によって、人類は他の動物と永遠に袂を分かった」「言語の影響は思考全般に及ぶから、言語が違えば現実を把握するやり方も異なってくる」「子どもは周囲の大人をモデルにして言語を習得する」「文法的に正しい言葉遣いは学校で培われるが、教育レベルが下がったと同時に、低級なポップ・カルチャーの蔓延したせいで、文法的に正しい文を作る能力が恐ろしいほど低下している」…ピンカーは「これらの考えはすべて間違っている。なぜなら、言語は文化的人工物ではなく、したがって、時計の見方や連邦政府の仕組みのように習得はできないからだ」と言います。
彼によれば、言語は人間の脳の中に確固とした位置を占めていると言います。言語を使うという、特殊で複雑な技能は、正式に教えられなくても、子どもの中で自然発生的に発達するのです。
「私たちは言語の根底にある論理を意識することなく、言語を操っている」と彼は言います。「誰の言語も質的には同等であり、言語能力は、情報を処理したり、知的に行動するといった一般能力と一線を画している」と言うのです。