西野皓三│言語の秘密①

遺伝子分析が明かす「言語の秘密」①
分子生物学者の中にも、言語を本能として捉え、さらに言語と遺伝子の類似性を展開している人がいます。西野流にも理解と共感を持っておられる多田富雄先生(東京大学名誉教授)が、その人です。
多田先生は自著『生命の意味論』の中で、イギリスの科学誌『ネイチャー』(1991年・9月)に掲載されたケンブリッジ大学の生物人類学者ロバート・フォレイ博士の説を紹介しています。
要旨を説明しましょう。
旧人類を絶滅させた新人類も、やはりアフリカの一地方で生まれたとされています。
女性経由でのみ伝わるミトコンドリア(細胞内の一器官)の遺伝子を解析することで生まれた「イヴ」の子孫は、ネアンデルタール人を駆逐しながら世界各地に分散していったと言われています。体毛が生えておらず、寒さに弱いはずの私たちの先祖が、なぜ北へ北へ向かっていったかは今でも謎のままです。
このアフリカの原人の大移動の様子を、言語の成立という問題を通じて調べてみようという研究を行ったのが、このフォレイ博士です。
フォレイ博士は、アフリカ大陸から人類が世界各地に分散してゆくのと同時に、言語も多様性を獲得していくようになったと考えました。
博士は、アフリカの原人から現代のアフリカ諸民族、インド・ヨーロッパ人種、さらにモンゴロイドに至る人類史の流れを想定し、それぞれの民族グループ間の遺伝子差異とグループ内で使われている言語の多様性を比較したのです。
二つ以上ある集団の間で認められる遺伝的な差異を表す尺度を「遺伝的距離」と言います。血液型や、ある種の血液酵素のように、遺伝的な多様性を持つ物資の、集団内での頻度を測定することで、民族内の遺伝的な距離を計算することができるのです。たとえば、チンパンジーと人間の距離は0.62であり、アフリカ黒人と私たちモンゴロイドの距離は0.03となります。
フォレイ博士は、こうして測定された遺伝的距離と、グループ内の部族間で使われている言語の多様性の間には並行関係があることを突き止めました。
たとえば、遺伝的に近縁関係にあるアフリカ人部族の間で使われている言語の数も、やはり遺伝的に近縁な人種の集まりであるヨーロッパ圏内で使われている言語の種類もほぼ1000なのです。

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