西野皓三│言語の秘密②

遺伝子分析が明かす「言語の秘密」②
より多様性の見られる民族で構成される東アジア・オーストラリア地域で使われている言語の種類は、その倍の2000に達します。遺伝的解析から得られた東アジア・オーストラリア全域の人間の遺伝的距離は、アフリカ内部、ヨーロッパ内部での遺伝的距離の約二倍ですから、言語の多様性と、遺伝的距離は正比例の関係にあるというわけです。
さらに全人類の持つ言語の数は4000ですが、これも全人類間で認められる遺伝的距離が、東アジア・オーストラリア圏の人種で測定された遺伝的距離の二倍だということから2000×2=4000なので、データ的に整合するのです。
フォレイ氏は、遺伝子の解析から「遺伝的距離が遠くなればなるほど、言語のほうも隔絶した多様性なものが作り出される」という事実を膨大なデータを基に測定したのです。
両者が直線的な並行関係にあることから、遺伝子の変化と言語の多様性は、同じ原理で起こっているのではないかというのがフォレイ氏の研究の意味するところです。
これはとても説得力のある説と言えるでしょう。
アフリカで生まれた私たちの直接の先祖が、世界各地で遺伝子を変化させながら多様化していったのです。言語の能力は、まさしく人間の本能であり、遺伝子と深く関わっていると言えましょう。
多田先生は「遺伝子が重要な部分の構造を変えることなく、一方で新しい機能を獲得していく様子は、言語の大本のルール(文法)に基づきながら語彙を増やしていくことと、ひじょうに似ている」とも指摘しています。
遺伝子転換や遺伝子再構成といって、特定の遺伝子に他の遺伝子の小さな一部分を挿入して別の働きを持たせることもよくありますが、これは、一つの言葉(語幹)に接頭語や接尾語をつけて新しい言葉を生み出していくこととそくりだと言います。
多田先生の言葉を直接引用すると、次のようになります。
こうしてみると、言葉の成立と発展、遺伝子の誕生と進化には明らかに同じ原理が働いており、共通のルールが用いられているように思われる。一度単純な要素が創造されると、その組み合わせによって意味が生じ、繰り返しによって重複し伝達する際のエラーを取り込んで多様化してゆき、エラーでできた新しい要素の組み合わせは飛躍的に語彙の多様性を増してゆく。そのあとは、与えられた多様性を組織化して複雑な生命活動を運営してゆくのである。
人間の英知の象徴とされる言語もまた、遺伝子と本能の原理に根ざしたものであったと言えましょう。