西野皓三│テューモス②

勇気の本質としての「テューモス」②
プラトンは、「テューモスは一見、欲望的な性格を持っているように思われるが、魂の中で起こる紛争に当たって理知的に武器を取るものあり、テューモスはどうしても第三のものとして区別されなければならない」としています。
「理知(理性)的なものを身につけるのに長い年月がかかる。ある者たちはいつまでもそれと無縁であるようにさえ思えるが、テューモスは子どもたちの中に見ることができる」と言っています。
テューモスが、生まれたばかりの幼児すら持っている「生きるための知」であるということは、ひじょうに重要です。このことはテューモスが脳(大脳新皮質)の生み出す知ではないことを示しているからです。
胎児は母親の体内にいる間に、脳において約50兆個もの神経細胞を発達させます。胎児の神経細胞は、外部からの何らかの刺激を受けないかぎり、何の働きもしないのです。誕生して最初の一年間に、頻繁に刺激を受けた細胞だけが約150億個ほど生き残り、高度な情報処理ネットワークを作り上げるのです。
頭脳知が活動し出すのは、生後一年経ち、大脳の情報ネットワークが完成してからであり、本格的に情報を収集し、知識を活用し出すのは、学習を開始した後、つまり、早くても小学校に入学後ということになりましょう。
テューモスは、後天的に学習によって養成された知ではなく、生まれた時から身体(細胞)が持っている「生きるための知」だと言えます。
このテューモスについては、世界的に話題を呼んだ書物である『歴史の終わり』(三笠書房)の中で、フランシス・フクヤマ氏に採り上げました。
フクヤマ氏は歴史の原動力として、このテューモスの重要性を指摘しています。「テューモスを持った民族だけが歴史を動かし得る」と彼は言っています。
『歴史の終わり』というと、一般的には「民族が伝統的な君主制やファシズム、さらには共産主義といった敵対する政治体制、イデオロギーをすべて打ち破ってしまったので、統治形態や政治イデオロギーをすべて打ち破ってしまったので、統治形態や政治イデオロギーの闘争としての歴史は終わった」というセンセーショナルなメッセージとして有名ですが、テューモスをキーボードにして、見事に近代経済思想史を解き明かして見せたフクヤマ氏の力量にこそ、この書物の真価があるといえましょう。

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