古歩道│医療訴訟が医療変質①

医療訴訟が「金を毟りとる医療」へと変質させた①
最初に述べておくが、1950年代ごろまでアメリカの医療制度は、超大国アメリカに相応しく世界最高の医療体制を誇っていた。現在と違い、当時は別に人を殺す「悪魔の医療体制」ではなかった。後の章で述べるが、大麻禁止などの民間療法を排斥していた以外、制度自体は悪くなく、「人を救う」ように制度設計はされていた。とくに慈善団体による公営病院が医療体制を支えており、無保険者など貧しい人も安心して暮らせていた。
そう、今のアメリカの医療システム最大の問題は、人を救うための医療制度が「人から金を毟り取る」制度へと変質していることなのである。
そのきっかけは1970年代にあった。この時代から「医療訴訟」が激増するのだ。
いわゆる「ambulance chaser(救急車の追跡者)の登場である。アメリカ社会独特の契約概念と懲罰的損害賠償という考えでアメリカは「訴訟大国」化した。そのきっかけが、「医療訴訟」であったのだ。アンビュランス・チェイサーとは、職にあぶれた弁護士が救急車をみかけるたびに病院まで追いかけ、患者に「不当な医療行為で苦痛を受けたはずだ、医療訴訟をすれば必ず勝てる」と唆してきたことに由来する。ろくでもない弁護士という意味と思って間違いない。現在、アメリカにおける医療訴訟にかかる経費は、なんと年間10兆円にのぼっている(『産科と婦人科』2006年8号)。日本の医療補負担額は年間38兆円、その4分の1が医療と無関係なところで使われているのだ。これでまともな医療体制が維持できるほうが不思議だろう。
実際、カルフォルニア州では1975年、医療過誤訴訟による賠償支払額が18倍に増加、医療裁判保険を扱っていた保険会社が次々と倒産、もしくは撤退したために、保険に加入できなくなった医師や病院が医療行為をストップせざるをえない異常事態になった。1960年代の保険料が1975年には30倍まで跳ね上がったのだから、医療行為を続けるにはバカ高い保険料を治療費に上乗せするしかなくなる。そうすれば、今度は非営利病院で地域医療を支えてきた各自治体や慈善団体が予算不足に陥って維持できなくなる。地域の中核病院であった公営病院を売却するか、閉鎖するかしかなくなってしまったのだ。