古歩道│黒幕は医薬品業界③

アメリカでは救急車で運ばれてきた患者は必ず治療するという法律があって、ドラマでお馴染みの「ER」(エマージェンシー・レスキュー/救急外来)では治療を受けられる。しかし、「応急的な処置」が終われば治療途中だろうが病院から追い出されてしまう。治療用の薬すら処方してもらえないぐらいなのだ。
無保険状態の人が病院で医者に診察してもらうには、正真正銘、病状を悪化させてぶっ倒れるか、もしくは死にかけるしかないのが実情なのである。
マイケル・ムーアがアメリカの医療制度を痛烈に批判した映画『シッコ』で、不当逮捕に拷問など人権を無視した悪名高いグアンタナモ捕虜収容所を「怪我をした捕虜を無料で治療するなんて、アメリカ本土より人道的だ」と皮肉っていたが、無保険者からすれば皮肉どころか、本音といっていい。
そこまで追い詰められているから「治験」が効いてくる。
治験とは医薬品開発、新しい医療器具の実験、さらに新しい治療法を考案した医師の研究に協力することだ。医薬品メーカー、医療器具メーカー、大学医学部の研究チームに協力するなら、ちゃんとした病院で治療して、医療費をタダにして、内容によっては「協力謝礼」を支払ってやる、そう、病気で苦しんでいる人に「悪魔の囁き」をするわけだ。
悪魔の囁き、と書いた。あながち間違いではない。新薬開発、新器具開発、新治療法開発は、はっきりいえば「人体実験」だからである。
あるメーカーが新しい抗がん剤を開発していたとしよう。治験に持ち込むのは、動物実験が終わった段階で、人間にも効果があるかどうか、臨床実験を行い、フェイズ1とフェイズ2を経てFDAの認可を受けるというのが、一般的な新薬開発の流れとなる。
臨床試験と聞けば、これまでなかった未知の新薬を使って効果があるかどうかを試しているように思う人も多いだろう。治験でなければ病院で治療を受けられない無保険者にすれば拒否する選択肢は最初からないが、それでも「画期的な新薬を使える」となれば実験に協力したくなる。従来の薬で効果のなかった人ならば大喜びで協力するだろう。