古歩道│崩壊したイギリス④

「ゆりかごから墓場まで」が崩壊したイギリス④
いやはや、思わず笑ってしまうが、直後に背筋が冷たくなってくる。ここまで酷いのか、と驚いた人も多いだろう。残念ながら、これが「世界最高」の理想の医療体系の現状、いや、惨状なのである。
なぜ、こんなことになっているのか。
実は、理想的、完璧な医療体制と思われてきたNHS「国民健康サービス」には、重大な欠陥があったからなのだ。
その欠陥とは、さほど難しい話ではない。さっきも説明したが、NHSでは登録医の診断を受け、重い病気や怪我の場合、登録医の紹介で高度な医療を担当する大学病院や中核病院へと転院する。ところが、登録医の紹介状がない場合、自由診療、つまり、大病院は「言い値」で医療費を請求できるのだ。NHSは、一種の「国民皆保険」。登録医の診断を受けないことはイコールNHS(保険)を利用しないことを意味する。制度のサービス外だから、病院側は好きなだけ治療費を請求できるのだ。
大病院側にすれば、NHSの患者と、NHS外の患者のどちらに来てほしいのか、説明するまでもあるまい。NHS適用者は原則無料。しかも保険点数などで厳格に医療費が決められている。この制度が導入された1948年以降、イギリスは長引く不況で経済が悪化、財政は火の車になってきた。当然、NHSへの公的負担は下がり続ける。その一方で医療設備やスタッフの給料、医薬品は、どんどん上昇していった。
簡単な計算だろう。高度医療機関は、その医療設備を維持するためにNHS適用患者を限界まで減らして、非適用患者を増やすしかなくなるのである。政府側としても「患者をもっと受け入れろ」といえば「公的援助を増やせ」と迫られるだけで黙認せざるをえない。
何度かNHSは「完璧な医療体制」と書いてきたが、完璧どころか、最悪の医療制度に対する「皮肉」を込めていた。どのくらい悪質な制度であったのか、説明しよう。