古歩道│崩壊したイギリス⑤

「ゆりかごから墓場まで」が崩壊したイギリス⑤
NHS非適用患者を増やすには、GP「登録医」が患者に高度医療機関を極力、紹介しないことが前提となる。つまり、逆ノルマが発生するのだ。おそらく年間で何人まで、といった形でGP「登録医」に圧力がかかったのだろう。GPは、基本、若手の医師が多い。GPで経験を積み、中核病院へと転籍するのが「出世コース」である以上、彼らも逆らえないのである。
もちろん、志の高いドクターもいただろう。だが、GPの医療設備は診療所に毛の生えたようなもの。やれることは限りがある。助けたくても助けられない状況が続けば、志の高い人ほど絶望して、やる気もなくなる。さっきのジョーク集に出てくるイギリス人ドクターは、イギリスの医療の「現実」に理想を押し潰された犠牲者でもあるのだ。
事実、イギリスの医療に絶望した前途有望なイギリス人若手医師たちは、こぞってアメリカやヨーロッパの病院に移籍している。1995年には、イギリス国内の新規登録医師数は1万1000人、それが2000年になると8700人まで激減しているのだ。日本に限らず医師不足は、どこの国でも深刻とメディアが大騒ぎしているのだから、増えることはあっても減るはずはない。頭脳流出しているのだ。
GPがやる気を失い、腐敗堕落していけば、多少、生活に余裕のある中産階級はGP制度を諦め、生活を切り詰めもNHS非適応で高額な治療費を払う選択をする。厳格な階級社会のイギリスで、その支配階級である貴族や富裕層にしてみれば、高度な医療機関が自由診療でも構わないだろう。むしろ、移民や有色人種、労働者階級のビンボー人がいなくて快適、いつでも最高のサービスが受けられると、喜んでいるだろう。
実は、事態の深刻さは、それどころの話ではないのだ。前半で触れたアメリカとは全く同じ事態、そう、すでに貧困層の「実験動物牧場」も始まっているのだ。