古歩道│戦場医学①

戦場医学としての西洋医学①
ここに西洋医学について、整理しておきたい。
西洋医学とは何か。そう問えば、15世紀以降、ヨーロッパ=西洋で発展した科学的医療と答える人は多いだろう。歴史に詳しい人ならば、その起源を古代ギリシャのヒポクラテス学派まで遡って最も古い学問の一つというかもしれない。実際、日本を含め世界中の医療機関は、古代ギリシャの癒しと医療の神「アスクレピオス」が持つ、杖に巻きついた蛇「アスクレピオスの杖」の紋章を医学部、医療施設、救急車に飾っている。
間違いではないが、本質でもない。
現在の西洋医学を一言で表すとすれば「戦場医学」、積極的治療医学の総合体系というのが正しいだろう。
戦場の医学とは、戦傷兵のすみやかな治療方法、過酷な環境で蔓延しやすい疫病、感染症の対策、安定した薬草の保存方法。この対処を最優先にした医術体系となる。外科技術、衛生概念、そして医薬品製造技術を極限まで推し進めた医学、医術と思えばいい。
要するに「軍事技術」の一つなのだ。
優れた兵器や鍛えられた兵士が戦争に不可欠なように、戦争に適した医療技術もまた、軍事国家にはなくてはならない重要なファクターであった。当然、戦時下の国家は、医療技術を高めるべく金も人も惜しみなく注ぎ込んでいく。戦場には放っておけば死んでいくしかない傷病兵がたくさんいる。医師たち(軍医)は危険を承知であらゆる外科処置を施す。そうした冒険的な医術の結果、次々と画期的な術式が生まれる。また、軍事行動にとって感染症や疫病は天敵、消毒方法や衛生学、栄養に関する知識も高まる。
とりわけ発達するのが医薬品であろう。日常的に使う薬草は生薬である。薬効にはバラつきがあり、保存にも問題があった。湿気で腐ったり、変質したりすることも多い。この薬効を安定させ、保存を容易にし、なおかつ、供給量を上げる。そのため薬草から薬効成分を特定して化学合成をする。これが現代まで続く西洋医学の医薬品なのである。