『古事記』「神代巻」は以上の百神の原理を以て終わらず、この後更に「天の誓ひ」「天之岩戸開き」「須佐之男命と櫛名田比売」「大国主神の経営」「武甕槌神の言向け和はし」「国譲り」「天孫降臨」「海幸彦と山幸彦」等々のいきさつが次々に述べられている。これ等は然し独立した別箇の事実ではなく、右の「言霊百神」の原理を夫々の時処位の上に応用してその稜威を証明したところの理論的活動と発展の記録である。すべて咒文隠語を以て述べられてあるが、根底である五十音言霊、百箇の原則を以て釈いて行けば、境涯と気根と努力に応じ、且つ時代の進展に応じて誰でも釈くことが出来る。云わば布斗麻邇の応用問題である。元来神道には秘密も秘伝もない、人間自体の学である。そして此の百神の最後の証明であり結論であるものは山幸彦と海幸彦の物語りとして説かれている天津神籬、天津磐境の原理である。この後更に著者が天命を受けたならば、改めて神霊の啓示指導を蒙って爾後の『古事記』「神代巻」の全部を執筆する時があろうことをみずからに期待している。