「手当て」からはじまった医学の歴史
手当てという言葉があります。いうまでもなく、病気やケガの治療をすることで、「手当てをする」とか、「応急手当て」などというふうに使われています。
普段何気なく使われている言葉ですが、実はこの言葉は医学の起源をあらわしています。というのは、病気やケガの治療は患部に手をあてることからはじまっているからです。
人間は柱や家具など、何かかたいものに手や足をぶつけたとき、思わず痛いところをさすります。それは意識して行われる動作ではなく、無意識のうちに行われる動作です。いいかえれば、痛みを和らげようと人間の本能が行っている動作です。
レントゲンやCTスキャンはおろか、人類がまだ薬草を発見する以前のはるか大昔の時代にあっても、人間は手や足をぶつけたときには、いまと同じように痛いところを手でさすっていたのだと思われます。
やがて、痛いところさすると痛みがやわらぐことを、人間は経験的に理解するようになりますから、自分の子供がどこかをぶつけたときも、その痛いところをさすってやるようになります。また、さするだけでなく、もんだり、押したりすることが、痛みや不快な症状を緩和することをも学ぶようになります。
こうして、人類は薬もない時代に、痛いところに手をあて、さすり、もみ、押すことを繰り返し、やがてその方法を理論化し、それを専門とする職業が登場することになったのです。