気功の方法…呼吸の鍛錬⑤

(4)呼吸鍛錬の原則と要求
 一般的な静功鍛錬では、始めるにあたって、いかに身体をリラックスさせるか、姿勢を正しく気持ちよくさせるか、情緒を安定させるかに注意を払うことが主であり、その後に呼吸を整えることに注意を払うのである。なぜならすぐに呼吸の鍛錬に入ってしまうと、かえって呼吸が荒くなったり緊張して不自然になってしまうからである。
 呼吸の型について、古人は、風・喘・気・息の四相の説を唱えた。後漢の安世高が訳出した『安般守意経』巻上の中に、最初にみられるが、その後、随代の智顗の『小止観』、明代の王龍渓の『調息法』の中にもこの説がみられる。
 風相とは、呼吸がかなり荒く急迫しており、自分の荒々しい息遣いが聞こえる状態を指す。喘相とは、自分の息遣いは聞こえないが、呼吸の滞って伸びやかでない感じを受けるものを指す。気相とは高度な安静状態のときに現れる深く長い規則的な呼吸をいう。呼吸鍛錬では、一般的にはいかに風、喘、気相を次第に息相まで鍛錬するかが要求される。しかしながら、呼吸の型と人の活動、情緒との関係がある。たとえば、次のような記載がある。
活動…『素問』挙痛論では「労働すれば息が喘ぎ、汗が出る」といっている。これは肉体労働したときの呼吸の状態であり、切迫した喘ぎである。運動したときにもみられ、比較的切迫した喘ぎであり、休息すると次第におさまる。
情緒…『素問』の挙痛論ではまた、次のようにいっている。「怒れば気は上り、喜べば気が緩やかになり、悲しめば気は消え、恐れれば気は下がる。…驚けば気は乱れ、思考すれば気は固まる」。ここでは主に感情の変化により引き起こされた人体内部の総合的な変化指しているが、人が感情に影響を受けたときには、確かに呼吸も同じように影響を受ける。たとえば怒ったときには、呼吸は常に速くなり、急に驚いたり恐れたりするとときには息が止まってしまうなどである。また、よくいわれている「心が平穏であれば気もなごみ、気がざわざわすれば、心は落ち着かない」のも、情緒と呼吸の関係を語っている。
 このため、呼吸の鍛錬では、自分の活動、情緒をうまく把握するとともに、一定期間の調整練習が必要であり、決してすぐにはできるものではない。呼吸鍛錬の原則は次のようなものである。
第一に、呼吸鍛錬は自然呼吸を基礎としておこなわなければならず、自然にリラックスすることが求められる。清代の李涵虚の『道竅談』の中で「一呼一吸を一息といい、その自然に従わなければならないが、自然のなりゆきにまかせてはいけない」とある。
第二に、呼吸するときには順序を追って少しずつ進み、功を焦るのはよくない。「忘れるなかれ無理するなかれ」を把握しなければならない。この意味するところは、アクティブな呼吸調整を忘れてはいけないし、また、同時に無理に呼吸はこうすべきであるなどと求めて力を加えたりしてはいけないということである。単純に呼吸を追求すると『仙佛合宗』の中で批判している「いい加減に呼吸することは、死体幽霊の類を守ることである」になってしまい、かえって所期の効果に達することができない。
第三は、呼吸鍛錬では、練功することも静養することも必要である。一定時間練功して、「静養」状態に入ると、しばらくの間、意識的な呼吸を止めることにより、練功を高度の安静状態へとうながす。さもなければ、せっかく到達した状態を駄目にしてしまう。
第四は、深長なむらのない呼吸は、練習を積み重ねてはじめて可能である。いわゆる呼吸が深長であるとは、浅く短く回数の多い呼吸を、深くて長く、回数が少ない呼吸に変えることである。普通の人の呼吸は、平均1分間十六~二十回である。長い間練功した者は一分間三回~四回、特に優れた者は一~二回に達するが、息苦しい不快な感じはなく、自然で心地よい。しかし、これは練習を積み重ねてやれることであり、決して主観的に無理にやりできることではない。『荘子』のいう「真人の呼吸は踵まで至り、衆人の呼吸は喉まで至る」を根拠にして、呼吸は踵に至るまで深長に行うという考えを出したものもいた。踵をこのように誤解してはならない。呼吸は踵まで行くことはない。それゆえ、明代の陸潜虚の『玄膚論』の中には「踵に至るとは、深く穴に入ることである」と書かれている。『道竅談』ではもっともうまく説明している。「踵(きひす)とは、次々続いて絶えることがないことである」つまり踵息とは深長な呼吸を指しており、これと相対するのが喉息であり、喉息は浅短な呼吸を指しているにすぎない。
 いわゆる呼吸が細かくむらがないとは、呼吸が微細かつ平均していることである。これも同様に練習の積み重ねによってできるものであり、呼吸の深長と相互に促進しあうものである。注意すべきは、「気を費やせば尽きてしまい、気を止めると傷めてしまう」ことである。気を費やすとは呼吸を長びかせ、無理やりに深長にすることであり、気を止めるとは息を殺して無理に呼吸の回数を減らすことである。このようにすればかえって切迫した呼吸になるか、胸腹部の筋肉を傷つけ痛くなるなどの良くない反応が現れる。

2019年9月
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