ナチュラル│空気と呼吸.2

頭仙骨テクニックと呼吸
 医大では呼吸の病気については学んだが、こころと体の架橋としての呼吸、意識と無意識の回路としての呼吸、物質にひそむ精神の運動としての呼吸については何一つ学ぶことはなかった。
 呼吸は健康とウエルネスの世界をつうじる扉をあける鍵であり、身体的・精神的・霊的な調和を高めるための技法として学ぶことのできる機能である。ヨーガ、武道、アメリカ先住民の宗教から、自然分娩、オステオパシー医学にいたるまで、じつに多様な伝統が、呼吸を生命機能でもっとも重要なものだと定めている。
多くの言語では…遺憾ながら英語は違うが、…「霊」と「呼吸」とはひとつの同じ言葉で表現する(サンスクリットは「プラーナ」、ヘブライ語は「ルアチ」、ギリシャ語は「プネウマ」、ラテン語は「スピリトゥス」)。アメリカ先住民は、人体にいのちが宿るのは出産や受胎の瞬間ではなく、最初の呼吸のときであると信じている。胎児や新生児は一種の植物的な存在で、呼吸のサイクルが始まるまでは聖霊が宿っていないと考えられているのである。
呼吸にかんするわたしの知識は、自分自身の経験、文献、ヨーガの研究、患者の治療、呼吸の重視する治療家のもとでも実習などから学んだものである。その中でも特に興味深い人物は、オステオパシー医のロバート・フルフォード博士である。彼は、恐らく私が知る限り、もっともすぐれた臨床家でありヒーラーである。知遇を得た時は80歳だったが、まだ現役で治療を続けていた。老後は暖かいところで過ごそうとオハイオ州からアリゾナ州に移ったが、そのすぐれた技量を求める声が多く、引退させてくれないのである。いまの大半のオステオパシー医と違って、フルフォード博士はオステオパシー医学の創始者、アンドルー・テイラー・スティルの伝統的な技法を忠実に守ってきた。さまざまな病気の治療を手技だけで行い、アリゾナ州に移ってからは、ほとんど子供を相手に治療をしていた。子供を治療すると自分も元気になるということだった。生体のもっとも重要な機能は呼吸であり、呼吸が制限されると機能不全や病気になるというのが、フルフォード博士の立場である。

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