西野皓三│動物エートス①

動物にもある“エートス”としての知①
こうしたエートスという「知」は、人間だけのものではありません。それは動物にも存在しています。以前、「生きもの地球紀行」というテレビ番組を見ていた時に、その実例を発見しました。
それは、生息地域によって、シャチがそれぞれ高度なテクニックと、巧みなチームワークに支えられた「独特の狩りの方法」を身につけている、というドキュメンタリーでした。
最初に紹介されたのは、ノルウェーの、フィヨルドによって浸食され、切り立った氷山に囲まれたロフォーテン諸島のシャチの狩りの仕方です。この地域に棲むシャチは数頭から十数頭の家族やグループで生活していますが、驚くべき情報交換により、計算され尽くしたような狩猟行動をするのです。
シャチは、まず深い場所にいるニシンの大群を大きな音を発して混乱させます。シャチは頭部にメロン器官という、特殊な音色を調整するところがあり、仲間との通信のためにさまざまな音を発信することができるのです。ニシンの群れの混乱を確かめると、シャチはすかさず群れの下に入り、大量の泡を出しながらニシンを海面近くに浮上させます。その泡は無数の光の粒を放射するミラーボールのように、白く輝きながらニシンの群れを覆っていきます。
こうしてシャチはニシンの群れを取り囲み、群れを大きなボールの形に追いつめていきます。そして、最後に群れに突っ込むのですが、シャチは尾ビレでニシンをひっぱたき、気絶させてから一匹残らず食べるのです。
哺乳動物であるシャチは魚とは違って、深い所に長い時間潜ることができません。そのため獲物を海面近くに追い上げる、狩りの方法を創り出したのです。「この狩りの仕方はノルウェー北部だけで観察される」と、ノルウェー環境保護局のタク・ボンクラーベン氏は説明しています。

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