西野皓三│嗅覚細胞の驚異②

人智を超えた嗅覚細胞の驚異②
ニオイという言葉で「雰囲気」を意味する場合がありますが、これはその場の状況を把握するうえで、嗅覚が重要なファクターとなっているということを意味するのでしょう。また、挙動不審な怪しげな人を指して、「あの人はくさい!」と言います。最近の若者の強烈な表現として「おじんくさい」というのもあります。文化のように漫然としていながら、確かにその実感があるものを表現する時、「日本文化の香り」とか「香り高きビザンチン文化」という言い方もします。
このように現代社会においても、人間はほとんど無意識のうちに、鼻を利かせ、嗅覚に頼って生活を営んでいるのです。
脳生理学的に見た嗅覚の特徴を、もう一度確認してみましょう。
嗅覚は大脳辺縁系へ直接、繋がっています。辺縁系は好き嫌い、喜び、悲しみ、怒りなどを引き起こす情動の場だと言われています。視覚や聴覚など嗅覚以外の感覚は、まず大脳新皮質の一次感覚野で処理されて、その後、連合野でさらに他の情報や記憶と統合され、必要に応じて辺緑系と連合をとるのですが、嗅覚はそれらとは根本的に違っています。
ニオイは大脳皮質で処理される前に辺緑系に直接入るので、理性に管理されない本能的な感情や情動、直観を生む可能性があるということです。
人間は、現代社会の中においても必要に応じて嗅覚を通じて直接本能(情動)の力を引き出し、自己の生命(人生)を守っているのです。