西野皓三│脳と腸②

「脳」は「腸」から生まれた②
脳から腸が生まれたこの事実は、実はかなり前から分かっていたことでした。
既成概念というのは恐ろしいものです。
「脳は最高の器官である」という思い込みが強烈に働いていたために、現実のヒトの脳と腸の働きを比較してみよう。あるいはヒトの脳と腸との間に何らかの関係があるのではないかとは、長い間、誰も考えなかったのです。腸のような“下等”な器官が、まさか頭脳に関係しているわけはない、というわけです。
たとえば、今日ではヒトの腸が分泌するホルモンと、脳のニューロンが分泌しているホルモンとでは共通のものが多いことが明らかになっていますが(このホルモンを「脳腸ホルモン」あるいは「脳腸ペプチド」と言います)、この脳腸ホルモンのエキスパートである藤田恒夫教授(新潟大学)は、著書の中でこう記しています。
学界においても、腸の研究は、私の感覚によれば、いわれない蔑視を受けてきたように思う。腸の働きなんぞ、単純なものさ。要するに食物を消化吸収するだけじゃないか。(中略)腸の研究より、糖尿病や腎臓病の研究が、それよりさらに脳の研究が尊敬されるのは、複雑で神秘性に富んだ研究領域ほど高級にみえるからである。(『腸は考える』岩波新書)
この脳腸ホルモンなどの発見により、これまでの腸に対する見方はがらりと変わりました。「腸は小さな脳である」と言われるようになり、腸と脳との関係がクローズ・アップされるようになっています。
腸が発した脳腸ホルモンは、血液を通って脳に達します。このホルモンは脳のニューロンの働きに影響を与えないはずがありません。脳のニューロンもまた、同じホルモンを用いて、情報伝達を行っているからです。これまで、脳は脳だけで独自に活動していると思われていましたが、腸と脳とはある意味で一体だったのです。
私はかねてから呼吸法の実践を通じて、「人間の“知”には二種類ある。大脳の“頭脳知”と、細胞の“身体知”、この2つが連携した時に最高の知性が生まれる」ということを語ってきましたが、そのことが科学によって証明される時代が訪れたことに、深い感慨を覚えています。

2020年8月
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