西野皓三│「知」の変遷

人間の「知」の変遷を追う
身体知をより理解するために、人間の知の変遷(歴史)というものについて少し述べておきたいと思います。
人間の知の歴史を大きく分けると、神話の時代、理性または啓蒙の時代、科学の時代と3つに分けることができるでしょう。
神話の時代とは、広くは、紀元前4000年頃エジプトやメソポタミアなどの古代文明の時代、さらには、それ以前のアニミズム(精霊崇拝)の時代も含みますが、ここでは神話の時代の代表としてギリシャ時代を挙げたいと思います。
ギリシャ時代には、人間のあらゆる知が存在していたと言ってもいいほどです。人間の知の原点と言ってもいい時代かもしれません。今、私たちが生活している民主主義という政治形態も、ギリシャ時代に初めて作り出されたものです。
専門化しすぎてしまい、個々の学問が行き詰まったり、問題を眺める大きな観点が見失わた時など、ことあるごとに「ギリシャに返れ」と言われるのはそういう意味なのでしょう。
神話の時代という意味は、秩序(コスモス)を求める知があると同時に、カオス(混沌)がパワーを持っているということであり、普遍性とか、総合、統合という理念があると同時に、多様性ということも、ひじょうに大事にされた時代ということです。
ニーチェは、ギリシャ時代を「理性としてのアポロンがいると同時に、酒の神であるディオニソスが共存している」と言いました。
アポロンとは、ギリシャ神話の中でゼウスとレトの子と言われ、理知的で聡明な光輝く神だとされています。一方のディオニソスは、ゼウスとセメレの子で、英語ではバッカスと呼ばれます。ディオニソスは酒と豊穣の神であると同時に狂乱の神でもあり、特に女性の間で熱狂的に崇拝されました。
永遠の価値を持つギリシャの「知」は、理性の神アポロンだけが作ったのではありません。その対極に、快楽の神ディオニソスが存在したからこそ成立し得たのです。

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