西野皓三│言語と幻想①

言語が幻想を生み出す①
科学のもたらした人類への最大の貢献は、私たちの生命をも生み出した「自然の摂理」という絶対的な知(法則)の存在を明らかにしたことです。
科学はその一方で、より便利に、より効率的に生きたいという、脳が作り出した欲望を実現させるテクノロジーをもたらして、新たな混乱を巻き起こしつつあります。
端的な例が、バーチャル・リアリティーです。
バーチャル・リアリティーとは仮想現実のことです。これを言葉どおりに捉えると、現実ではない「イリュージョン(幻想)の現実」となりますが、ヴィジュアル(視覚的)なハイテクに支えられたバーチャル・リアリティーを、本物のリアリティーと区別することは至難のわざです。
もともと、人間は言語の世界を持っていますが、この「言語の世界」とは幻想の世界、つまり、バーチャル・リアリティーの世界に通じるのです。
人間は「言語の世界」を基にして、さまざまな社会の仕組みを作り、その仕組みの中で生きてきました。人間は言語を持った時から、バーチャル・リアリティーの中で生きているのです。
言語は、目の前で起こっていることや行いたいこと、他人に、いかにそのまま伝えようかという試行錯誤の中で生まれた表現記号です。
すべての人間はその言語という記号によって、情報伝達やコミュニケーションを行っているのですが、現実と言語が作るバーチャル・リアリティーとの間には、つねにギャップが生じているのです。
さらに、厄介なことには、言葉の作り出した複数のバーチャル・リアリティーが、新しい言葉の出現とともに、融合したりして、さらに現実の世界を浸食し、よりもっともらしいバーチャル・リアリティーの世界を作り上げていくのです。
こうした現実と言葉(バーチャル・リアリティー)の矛盾を端的に示すのが、「話し合えば分かる」という、誰しもが信じがちな虚構です。

2020年8月
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