西野皓三│嗅覚とテューモス②

嗅覚とテューモスの関係とは②
ちなみに、タイム(ジャコウソウ)の花言葉は「元気・活気」と「勇気」で、テューモスに通じます。タイムもまさに、スピリティッドネスそのものなのです。同じ植物に関する言葉としては、香り高いジンチョウゲ科の植物に「サイマリエイシー」という種類もあります。
また、チモール(thymol)という化学物質もそうです。これは『科学大辞典』(丸善)によると「無色の結晶または白色の結晶性の塊で芳香性のニオイがあり、舌を焼くような味がある。殺菌、防腐作用があるため、殺菌用洗剤、軟膏剤、粉剤として用いられる」と説明されていますが、やはりニオイが特徴的な物質です。さらに脊椎動物の免疫器官「胸腺」の原語は、チムス(thymus)ですが、これも同様です。
テューモスという言葉は、単に勇気や気概というだけでなく、香りと深く結び付いているのです。テューモスとは嗅覚を通じて発せられる情動の声だと言ってもいいでしょう。
人間の五感の中でも嗅覚が、情動と深く結びちきを持っているという事実は、情動を司る扁桃核のところですべて述べました。
鼻腔は嗅覚の要でもあります。原始魚類であるサメの鼻腔は、顔面の先に脳の突出器官として作られたものです。また、嗅神経のみが脳神経の中で交差していたいことからも、最も古い脳神経と言われています。
人間の社会でも、物事の判断に敏感な人を“鼻が利く人”と言いますが、生物の進化から見ると、腸管が脳神経系を作っていく過程で最初に出来た嗅覚こそが、動物(人間)にとって、外の世界に触れず、身を守り、食べ物を得、状況を確認し、判断するという知を生み出す大本の身体感覚だったのです。
テューモスとは、まさしく身体知のもたらすものであり、それは呼吸とも深く関係するものであるのです。