古歩道│崩壊したイギリス②

「ゆりかごから墓場まで」が崩壊したイギリス②
NHSを導入した当時、世界中から絶賛されたのは当然であろう。
それだけでなく制度設計も実に革新的かつ合理性に富んでいた。
まず、2000人から3000人の人口で区分したエリアに一人のGP(ゼネラル・プラクティショナー/General Practitioner)と呼ばれる「登録医」と小規模医療施設を配置する。ホームドクター「家庭医」、日本では「かかりつけ医」と呼ぶような、近所にある町医者のような存在だ。区分されたエリア内の人は、各GPに個別登録すると「国民健康サービス」(NHS)を受けられるようになる。
 システムは、こうだ。病気や怪我をした場合、まず、このGPに行けば、無料で診療を受けることができる。複雑な検査や高度な治療、手術が必要な重度の病気や怪我の場合、GPの判断で高度な施設の整った大学病院や地域の中核病院を紹介してもらう。そのケースでも、当然、治療費は無料となる。
大学病院や中核病院など高度な医療機関は、高価な医療設備を揃え、高度な訓練を受けた医療スタッフを高給で集めている。日本でも社会問題となったが、医療保険で診察料が同じ値段になると、「せっかく診てもらうなら大きな病院で」と、風邪や腹痛などの軽度な病気でも患者が殺到しやすい。その結果、難しい治療に対応するための施設やスタッフが無駄に浪費され、高度な医療を必要とする患者への対応ができなくなる。コストパフォーマンスが悪くなれば、ひいては公的負担の増加にもつながる。
日本も、近年、GPにならって「かかりつけ医」制度を導入、大きな病院は救急外来以外、ほぼ「一見さんお断り」状態となっている。地元の「かかりつけ医」の紹介状がなければ、なかなか診察をうけることができないのだ。最初は近所の開業医で診察を受け、その病院や診療所で治療できないと判断された場合のみ、検査データや診断カルテを揃えた「紹介状」を渡されて初めて大きな病院で治療を受けるようにシステムが変更されている。これは近所の開業医を守ることで医療アクセスを確保し、高度医療機関を効率的に運用することで国庫負担を減らす「医療のハイローミックス(High-Low Mix)」である。